わが子のような思いで送り出す。長期連載最終回は、新ボールパーク構想の仕掛け人で、推進役を担った「ファイターズ スポーツ&エンターテイメント」の前沢賢取締役事業統轄本部長(48)に単独インタビューした。開業まで2カ月に迫った思い、来場者に感じて欲しいこと、残された作業、一過性の盛り上がりにしないための取り組みなど、事業の中心人物としてけん引してきた“生みの親”の考えを聞いた。【聞き手=永野高輔】

-もうすぐ開業。今はどんな思いでいるのか

うれしいのと、まあ若干、気持ち悪いんですけど、寂しい感じが入り交じっていて。さらに僕、心配性なので、心配。その3つが入り交じっている感じですかね。

-どういう部分が心配

やっぱりその、いままでにない取り組みをいっぱいしているので、過去の経験が、あまり役に立たないと思うんですよ。で、ユニークな球場の中で、どうやってオペレーションを組み上げて、来ていただいたお客さまに喜んでいただくのか、っていうのが心配だなと。細かいところが気になっちゃいますね。今も、これどうなってるの、あれどうなってるの、って部下に聞きまくって、嫌な顔をされてますけど(笑い)

-寂しいとは、どんな心境なのか

何か、エスコンフィールドとかFビレッジが、自分の子どもみたいな感じがあって。自分の子どもが家にいたんですけど、初めて外に出て行くような感覚なんですよね。そういう意味で、寂しいというか。

-1人暮らしをして出て行ってしまうような

まだ、たぶんそこまで“成人”していないので。本当に初めて幼稚園に行く、っていう感じですかね。幼稚園に行って、友達とうまくできるのかなあって。そんなレベルだと思います。

-そういう気持ちはどう整理しているのか。ストレスも、あるのか

まあ、でも非常に前向きな仕事なので、ストレスは感じたことが、本当にないですよね。このプロジェクトで。周りが本当に働いていてくれて、先回りして、いろんなことをやってくれるスタッフが増えているので。心配な半面、みんながやってくれている安心感もあるので。それでバランスが取れているのかもしれませんね。

2023年3月に開業する新球場「エスコンフィールド北海道」について話す日本ハム前沢取締役事業統轄本部長(撮影・黒川智章)
2023年3月に開業する新球場「エスコンフィールド北海道」について話す日本ハム前沢取締役事業統轄本部長(撮影・黒川智章)

-9割完成。残りの作業や工事は

球場単体は、ほぼできあがっていて。いつ野球をやってもいい状態になっているんですけど。ただ、テナントに入られる会社の工事が、来年3月ぎりぎりまでかかってくるところがあるので。そこですかね。

-実質、テナント店舗以外の野球や試合に関する準備は、すべてできている

建築はできていて、まだ家具とかが入っていないので。それこそトレーニング場の機器とかが入ってきてなかったりもするので。そういったものが入ってきて、ようやくできるってことだと思うんですけど。

-構想が生まれたきっかけ、タイミングは

このプロジェクトが具体的に始まったのは15年の4月なんですが、それまでも北海道に球団が誕生してから、いろいろな経験をしていく中で、このままで本当に将来的にも、次の世代にバトンタッチできるのかなっていう、かなり不安があって。じゃあどうやって解消していくんだっけ、っていうところの、紆余(うよ)曲折する中で最終的に「エスコンフィールド」っていう風になったんだと思います。

-こういう球場をつくろうと言い出したのは

基本は私と三谷(仁志取締役事業統轄副本部長)で。もちろん吉村(浩チーム統轄本部長)さんに確認しましたけれども、吉村さんは「君たちがつくりたい球場で、やってくれればいいよ。それにチームがアジャストすればいいんだから」っていってくれていたので。そういう意味では楽でしたね。

-どういった球場をつくりたいと考えた

簡単に言うと、野球を好きな人もじっくり見られて、そうじゃない人も楽しめる施設。で、もう2つあるんですけど、そこでプレーするチーム、選手が「この球場でやりたい」って言ってくれる球場。もう1個が、この球場で働く職員やスタッフの人たちが「この球場で働きたい」って言ってくれる球場、ですね。働きやすい球場。

-モデルはあったのか

いろんな球場を回らせていただいて、いろんな人がいろんなことを教えてくれて。本当に包み隠さずに教えてくれたんですよ。そういう人たちの意見を聞きながら、参考になるものを日本流、もしくは我々流に咀嚼(そしゃく)して、つくった球場だと思います。

-選手の反応は

何人も見たいっていう選手、コーチを連れて行って部屋とか説明したら「自分たちが想像した以上だった」とみんな口をそろえて言ってくれているので。あとは使ってみないと分からないところはありますけど、期待値は越えているのかなっていうのはありますね。

2023年3月に開業する新球場「エスコンフィールド北海道」について話す日本ハム前沢取締役事業統轄本部長(撮影・黒川智章)
2023年3月に開業する新球場「エスコンフィールド北海道」について話す日本ハム前沢取締役事業統轄本部長(撮影・黒川智章)

-Fビレッジの来場者にはどんなことを感じてもらいたいか

十人十色の楽しみ方を体験してくれればいいと思っています。我々が、こういう世代の人たち、こういう層の人にはこういうことをってやっていますけど、そうじゃない楽しみ方もあるよ、っていうのを、発見してもらいたいですね。このプロジェクトを通じてずっと思っていたのは、だいぶ、昔の世の中とがらっと変わってきたなと。窮屈な感じがするんですよね。で、コロナを見ても同調圧力がすごい、やっぱり強い国なんだな、日本はそういう国なんだなっていうのが、まざまざ分かって。でも同調圧力が強いがために、ここまで規律が守られて、きれいな国になっているんだとか、いろんなことを考えて。窮屈な世の中でいろんなことにチャレンジしようと思っている人がいる中で、それはできないよとか、それは無理に決まっているでしょって押さえ付けられている人たちが、自分の周りにもいっぱいいるのを見て。いやいやいや、できますよ、っていうのは、この球場、プロジェクトを進めていく中で、示したかったというのは、ありますね。

-理想と比べて100パーセントの出来か、それを超えているのか

我々がこのプロジェクトをスタートさせたときと、ほぼ同じですね。

-作っていく中で、ここはこうした方がいいなど、変わっていく部分はあったのか

ありましたね。例えば、植栽とか、街頭の木々。やっぱり、エリアの中に溶け込むには、植栽とかは大事だと強く思いましたし、もともとは幼木っていって小さい木が前提になってたところがたくさんあったのですが、やっぱり幼木じゃなくて、ちゃんとした成木で入れたいとか。もう少しシンボリックな木を至る所に入れたい、って言うのは、そういうのは、もともととは、違うところかもしれません。最初は、そういう(幼木から育っていく)もんでしょ、って思ったんですが、やっぱり、それはどうかなって。

-変えたことで駐車エリアや遊ぶスペースが少し圧縮されたりは

いや、そんなに変わってはいないです。殺風景な風景に彩りが出来たり、高さが出てリズムが出てっていうのは、結構あると思います。

-飲食店、宿泊施設を選定するポイントになったのは

一番嫌だったのは、偏っていること。例えば道内の飲食店しかない、ナショナルブランドしかないとか、それが多いとか。そういうのが嫌だった。なぜかというと、道内で住んでいる人もたくさん来られるし、その人たちからしてみたら、むしろ東京の有名なお店とか、ちょっとやそっとじゃいけない広島とか大阪のお店がある方が、僕はうれしいと思ったので。その辺のバランスは気をつけてやってねと、ずっと伝えていました。

-盛り上がりを継続していくために考えていることは

僕は初年度から大変だと思っている。それぐらい人の行動が、どんどん変容してしまったという事実があるので。新しいから人が来るでしょなんて、全然思っていない。

-先を見据えた取り組みとして考えることは

グローバルに「どこに行きたいですか」というアンケートで、今、圧倒的に日本が選ばれているっていうところは大きい、ポジティブなポイントだと思うんですけど。そんな中でも、やっぱり海外からのお客さまって、富士山のある静岡もそうですし、東京もそうだし大阪もそうだし、北海道もそうだと思うんですよ。日本に来たら行きたい場所だと思うので。そういった海外のお客さまが、たぶん今後どんどん観光で盛り返して、ピーク時よりも、さらに越えていくと思うんですよね。おそらく日本の円安にも起因しているのだと思いますけど。そういった人たちにも対応できるような施設にはしなきゃいけないなと思いますね。つまり多言語対応というのは、もっともっとやらないといけないですね。

-多言語化については、まだ増やせる余地はある

あると思いますね。例えばウェブでの翻訳も、現状だと英語はいいのですが、台湾だとちょっと分かりづらいんじゃないか、っていう意見も聞きますし。そういった多言語化対応はウェブ上でも、どんどん広げていくことは必要なんだろうなと思う

2023年3月に開業する新球場「エスコンフィールド北海道」のパネルを前に笑顔の日本ハム前沢取締役事業統轄本部長(撮影・黒川智章)
2023年3月に開業する新球場「エスコンフィールド北海道」のパネルを前に笑顔の日本ハム前沢取締役事業統轄本部長(撮影・黒川智章)

-試合で使うのは3月14日のオープン戦が最初になる。どんなイメージをしているか

14日は、ある程度、人数制限しながらやっていくので。ちょっとテスト、テストの繰り返しだと思っているんですよね。いろいろな問題が出てくるので、それを1個1個クリアしていく。ちょっと言い方は悪いですけど「作業」かなと、思ってますね。むしろ(開幕の)30日がこけら落とし。プラス、その前にチームが初めて練習で使う日の方が、ドキドキするでしょうね。

-エスカレーターをたくさん使っている理由は

少子高齢化は免れないと思ったので、やっぱり高齢の方々が、いろんな飲食店に行ったり、トイレに行くことが、しやすい環境をつくりたかったというのはあったので。やっぱりそうすると平屋でスタンドができるわけにはいかないので、何層かに。うちの場合は3層に分かれているので、それはエスカレーターとかエレベーターで上がっていただいた方がいいなと思っていたので。

-最後に。大変な作業の連続だと感じるが、やりがいを感じるときは

球場周辺を歩き回っていると、ちっちゃい子がユニホームを着て野球場を見ているのを見ると、すごくうれしく思いますよね。こういう子たちのために仕事しているんだなと。(おわり)

◆前沢賢(まえざわ・けん)1974年(昭49)5月4日、東京生まれ。04年10月から10年末まで日本ハムの球団スポンサーシップの営業や観客動員事業などに携わる。11年からパ・リーグのマーケティングや、DeNAなどで勤務し、15年3月に日本ハム球団に復帰。同年11月に、事業統轄本部長就任。


選手が語る新球場(9)

上沢直之投手(29)

1番楽しみなのは、お風呂です。かなり疲れが取れると思います。今年、結構1人で温泉に行く機会があって。本当に疲れがたまってきたな、と思ったら銭湯行きますね。サウナ入って水風呂入っての交代浴やると、疲れは取れますね。トロっとする泉質が好きですね。

選手からは球場ロッカーとか、こうしてほしいという案は出させてもらいました。コンセントはここにあった方がいいとか、ユニホームはこう掛けたいとか。ダグアウトの階段の段数も聞かれましたね。ベンチの高さとか、球場によっては後ろの席からグラウンドは見えなかったりするので、かなり細かいところまで聞いてくれましたね。食堂も、札幌ドームの3倍くらいの広さになるそうで。ぜいたくですよね。

野球を見に来るだけでなく、楽しめる施設が出来たらいいなと思います。野球見る前に買い物して、野球に飽きたら買い物して帰っちゃえばいいですし(笑い)ファンも僕らと一緒で、球場でお風呂入って帰れば、そのまま帰宅したら寝れるからいいですよね。新球場になったから、試合を観に行こうという人も多いと思うので、そこでいい試合を見せたいと思います。どんな球場になるのか、僕らも楽しみにしています。(おわり)