ロッテ福沢洋一2軍監督(50)には、5歳年上の伊東監督との間に忘れられない思い出がある。30歳になる前だから、もう20年以上昔のことだ。

 当時、ロッテの捕手だった福沢監督は、ある試合前に思い切った行動を取った。相手ベンチを訪れると、直立不動になって、勇気を出して、ある人に声をかけた。「教えていただきたいことがあります」。その相手とは、西武伊東勤だった。

 3連戦の間、毎日トライした。初日、相手にされなかった。2日目、うるさがられた。ついに、3日目、「また来たのか」とあきれられつつも、答えてくれた。捕手にとっての商売道具、配球について学んだ。福沢監督は「伊東さんは球界を代表する捕手。聞くしかないと思ったんです」と懐かしむ。

 自分より優れている人から何を学ぶか。プロ野球の世界に限らず、伸びていくためには欠かせない要素だと思う。そして、そういう“お手本”が身近にいるチャンスは、実は案外と限られている。そのことに気がつけるか、どうか、成長の分かれ道ではないだろうか。

 ロッテの2軍本拠地、浦和球場。今、ここには、若手にとって、とんでもないお手本がいる。言うまでもない。井口である。24日の引退試合に向けて、本人の言葉を借りれば「キャンプ中」だ。連日、高校を出て1年に満たない選手とも一緒に、汗を流している。

 福沢監督は「若い子が井口を見て、追いつけ、追い越せと思えるか。思える人は、当然、井口のことを見るし、分からないことがあれば、声をかけるでしょう」と言った。井口の合流にあたり、若い選手たちに「井口を見習うように」といった訓示は、あえてしなかったという。福沢監督の脳裏には、20年以上前の記憶がよみがえっていた。【ロッテ担当=古川真弥】