今年も各球団で新人合同自主トレが始まっている。未来のスター候補生たちの、プロ野球選手としての第1歩。清宮が汗を流す日本ハムの2軍施設・千葉・鎌ケ谷には、連日多くのファン、報道陣が足を運んでいる。

 合同自主トレといえば、私は寒かった、ある年の光景を思い出す。2013年、大谷が日本ハムに入団した年の1月。ちょうど、成人式の日だった。

 注目新人の取材のため、都内から鎌ケ谷へと足を運んだのだが、歴史的な大雪で一面真っ白に。交通機関も運休が相次ぎ、私はスタッフの車に同乗させてもらい、かろうじて動いていた地下鉄の駅まで向かっていた。

 その道の途中で、渋滞に出くわした。それもそうだ。スタッドレスタイヤを準備している車はほぼ皆無。ゆるやかな坂すら上ることができず、次から次へと車がスリップしているのだ。だが、自身の車は脇に止め、滑っている車を後ろから黙々と押しているひとりの男性がいた。湿った雪と、あふれ出る汗でビショビショになりながら、その男性は一台一台を後部から手押しし、坂を上らせていた。

 どれだけの人が、この献身的な男性の正体に気がついただろうか。男の名は、飯山裕志。昨年、日本ハム一筋20年の現役生活を、引退試合で終えた名バイプレーヤーだ。年間の最多出場は07年の105試合。ただそれも大半は途中出場で、守備職人としていぶし銀の活躍をしてきた。マイカーを脇に寄せ、他人の車を押す姿は、グラウンドでの存在感と重なる部分があった。

 飯山は今年から、2軍内野守備コーチとして再スタートを切る。千葉・鎌ケ谷で汗を流す若手選手たちはきっと、技術はもちろん、人間としても多くのことを学べるだろう。【日本ハム担当 本間翼】