よどみなく話をしていたヤクルトのドラフト2位・大下佑馬投手の表情が、こわばった。プロ初先発を2日後に控えた9日。意気込みを語った後、西日本豪雨災害の話題になった時だった。大下は広島出身。実家は今も広島市内にあり、江田島市能美町に住む祖母は、いつでも避難できるようにリュックを準備していると聞いた。「自分ごときが言うのはおこがましいですが、そういう中でも野球をやっていることは当たり前じゃないんだと、かみしめてやりたいと思います」。丁寧かつ慎重に言葉を選び、遠征先の静岡から遠く離れた故郷を思った。

 中継ぎ3試合で好投を見せ、前半戦の最終戦となる11日の巨人戦で初先発のチャンスを得た。そんな時、生まれ育った場所が災害に見舞われた。プロ初先発の日が迫ろうが、広島のことを思わずにはいられなかった。先発前日にもかかわらず、10日には神宮球場で行われた募金活動に参加。「あらためて大変なことになっているなと思います。生まれも育ちも広島で、ずっと育ってきた人間なので、早く何とかしてほしい、普通に戻ってほしいと思います。これ以上、事が大きくならなければいいと思います」と願った。思い切り投げる姿を見せることが、地元で応援してくれる人への恩返しになると悟った。

 試合の結果は、2本塁打を浴びての3回途中5失点でKOされた。プロの厳しさを思い知り、マウンドでがっくりうなだれた。後半戦は、再び中継ぎの1人として迎える予定だ。「自分の実力を受け止めて、やれることをやっていきたいです」。プロ生活は、まだスタートしたばかり。敗戦の悔しさを胸に、ここから、大下もはい上がっていく。【浜本卓也】