ヤクルト川端慎吾内野手は通算1000安打にリーチを懸けたまま今季を終えた。「999安打」にしてから9打席足踏みし、節目の記録達成は来季に持ち越しとなった。

今季終了から1週間後の21日、神宮クラブハウスに姿を見せた川端に、この話題を振った。シーズン中は1000安打を早く決めたがっていただけに、嫌な顔をされるかなとも思った。だが、むしろほころばせながら「あと1本、残しておきました」と、さわやかに笑って言った。

1軍未出場に終わった昨季に続き、今季もケガにつきまとわれた。腰、肩と、打撃の調子が上向きはじめた時に限って痛みに襲われた。リーグ優勝をした15年には首位打者と最多安打を獲得した好打者が、97試合で打率2割5分9厘、3本塁打。復活したとは言えない、苦しい1年を過ごした。今オフは体を万全に整えることに多くの時間を費やすのだろうと思っていた。

川端の考えは逆だった。「毎年は走り込みやトレーニングを重視するんですけど、振る量を増やします。振り込んで体に覚えさせないといけない」とバットマンとして体をいじめる覚悟を決めた。「今年はいつかは打てるだろうと思っていたのも、少しあったのかなと思います。でも、これだけ打てなかったので」。端正な顔立ちと紳士的な態度から「燕のプリンス」とも称される。怒りなどマイナスな感情や言葉をあまり口にしない。そんな川端には珍しく、チームに貢献できなかったという悔恨の念が言葉にまじっていた。

ケガの不安を完全になくすことは、今後も難しいと思う。それでも「体も腰も大丈夫。やるしかないですよ」と決意は固かった。通算1000安打目は、決してゴールではない。長い野球人生の通過点であり、次の目標へのスタート地点にしないといけない-。川端の視線は、通算1000安打の“向こう側”を見据えていた。だからこそ、体と心にムチを打って振り込んでいくと決めたのだろう。「あと1本、残しておいた」は、謙遜でも、冗談でも、強がりでもない。来季早々に達成するであろう「通算1000安打目」は、完全復活を果たす1年の幕開けを告げる1安打目になる。【ヤクルト担当 浜本卓也】