高校まで野球をやっていた記者にとって、ヒーローは松坂大輔だった。イチローも松井秀喜も、物心ついた時には既にスーパースター。横浜高での甲子園春夏連覇に始まり、プロ野球界を席巻していくサクセスストーリーをリアルタイムで目撃しながら練習に明け暮れた。

再起にかける楽天の若き剛腕2人を取材する過程で、その偉大さをあらためて認識した。

釜田佳直投手(25)は、4月21日のオリックス戦で655日ぶりの勝ち星を挙げた。昨年6月、右肩ベネット骨棘(こっきょく)切除術および後方関節包解離術、右肘クリーニング術の手術を受けた。肩にメスを入れるのは初めてで「野球選手として終わってしまうんじゃないかという怖さがあった」。14年に右肘のトミー・ジョン手術を経験していても、別格の恐怖だった。心を奮い立たせたのは「松坂さんが同じ肩の手術から復活した」という事実だった。春季キャンプで再び痛みが出た時は松坂の肩を治療した人物を頼り、復活勝利につなげた。

釜田とその人物をつないだのが、安楽智大投手(22)。1月に予定していた松坂との合同自主トレは実現こそしなかったが、ちょっとしたやりとりすら宝物になっている。最初に自主トレ同行をお願いすると「言い方は大げさかもしれないけど、人生を預かるわけだから、そこまで責任を持てるのか、オレなんかでいいのかちょっと考えさせてほしい」と言われた。後輩に対しても親身に寄り添う姿勢に、人間としての器の大きさを実感した。「肩をケガして、バッターと勝負する前に自分と勝負している感覚があります」と相談した時には「気持ちはすごく分かる」と共感してもらうだけで心が軽くなった。

今季勝利に届いていない安楽は「しっかり活躍して(松坂)大輔さんにいい報告もしたいですし、(いずれ)交流戦で投げ合えるようになれば、夢のような時間だと思う。そうなるために、僕は結果を出し続けないといけない。頑張るだけです」と力を込める。

「平成の怪物」は、令和の時代を迎えてもヒーローであり続ける。【楽天担当 亀山泰宏】

楽天安楽智大(2019年4月12日撮影)
楽天安楽智大(2019年4月12日撮影)