経験豊富な心配りが、投手陣を生き生きとさせる。オリックス松井雅人捕手(33)は、ベンチ最後列の奥から2番目に座る。

最後列の1番端は先発投手、もしくは救援登板を終えた投手が座り、タオルで汗を拭う。その隣に寄り添うため、松井は“定位置”に座っている。

「投手にもよりますけど、基本的には、そこですね。(イニングごとに)声は掛けますけど、声を掛けない方が良い場合もあります。相手をしっかり見て、言葉も考えて、ですね」

マスク越しに談笑したり、真剣な表情で向き合ったり。3アウト目を取った投手を、気分よくベンチに迎え入れる。「毎回じゃないですよ。状況とか空気を見て、ですね」。まずは現場を観察。一方的な言葉掛けはしない。

話しかける対象は投手全員ではない。「イケイケな投手は放っておいても、その勢いのままいけると思うので」と、左手にミットをはめ、戦況を見つめて声を出す。

最近では左腕の田嶋の隣で話しかけるシーンは多く見られ「(田嶋は)あんまり、ガァッと話すタイプではないんでね。ああ見えて結構、孤独になる。試合でそうなると、ちょっと…という感じだから、話に行ったり、声掛けもしますね」。緊張する投手を、魔法の一言で笑顔にする。

松井は09年ドラフト7位で中日に入団。19年途中にトレードでオリックスに加入した。今季は伏見、若月、頓宮らと競争中で、ここまで3試合に出場。試合数こそは多くないが、貴重な戦力としてチームを支えている。「もちろん、試合に出る準備は毎日しています。ただ、僕の役割はそれ以外の部分でも、どうやってチームに貢献できるか。ピッチャーとキャッチャーはバッテリー。2人で1つ。(コミュニケーションを取るなど)自分にできることをしっかりとね」。

試合中もベンチとブルペンを往復する日々。「中盤から終盤にかけて、試合が動く。(リリーフ陣と)確認を」。行動1つに、丁寧さが見える。

中日入団から10年近くを名古屋で過ごしたが、大阪の地にも慣れてきた。試合開始前には「僕がオリックスに来たときからありましたよ」と、ベンチに用意されているポケットモンスター・ピカチュウの袋に入ったアメやハイチュウを配るシーンも見られるなど、楽しい雰囲気つくりに一肌脱いでいる。

ベンチには「若い選手、中堅が混ざっている。勝っているのもありますけど、すごく明るいなと思いますね。全然、悪い雰囲気ではないです」。勝機をたぐり寄せるきっかけは、グラウンド以外にもある。【オリックス担当=真柴健】