忘れられない試合がある。18年3月23日のロッテとのオープン戦(ナゴヤドーム)。その1週間ほど前に、94年以来になるプロ野球担当記者に復帰したばかりだった。

1-1で迎えた9回表2死満塁。ピンチを背負った中日投手に2万人を超える観衆から拍手での応援が続いた。3ボール2ストライクのカウントになると、拍手はさらに増し、球場を包んだ。

いまではピンチの投手を応援する拍手が送られることは当たり前のシーンだが、90年代前後のプロ野球では見られなかった。荒っぽく、怒号が飛んでいたような記憶がある。20年以上のタイムラグが見せてくれた、応援風景の変化に心が洗われた。

拍手に包まれたその投手はしかし、満塁弾を浴び、5失点で敗戦投手になった。その日の午後に育成契約から支配下契約を勝ち取ったばかりの木下雄介投手だった。

木下投手は3日に他界してしまった。「(拍手は)聞こえてましたよ。声援の中で投げるのは好きですね」。拍手に包まれたスタジアムの記憶とともに、苦い敗戦の数日後、笑顔でこたえてくれた彼の姿も記憶にしっかり刻まれている。【中日担当=伊東大介】