ロッテ取材の現場を少し離れ、岩手県へ向かった。昨年3月同様、しっかり直前に陰性を確認し、時にはマスクを二重にして…。

大船渡に陸前高田。佐々木朗希投手(20)の故郷では、期待もますます高まっている。「人口は少ないですけれど、もともとスポーツは盛んです。特に野球は、子どもからシニアの世代まで」と陸前高田市の戸羽太市長(57)は話す。

完成間近だった球場は津波の被害を受け、代わりに新しい球場が建てられた。20年8月に完成し、その名は「奇跡の一本松球場」。電光掲示板も、バックスタンドも立派なものだ。元甲子園球児の熊谷勉さん(51)も何試合か草野球をした。「今までになくきれいで、すごくテンションが上がります。我々より、子どもたちがああいう球場でどんどんプレーできればすごくいいですね」と喜ぶ。

市民の思いが詰まる。5年前、運動公園へのアイデアを募る意見交流会が行われた。当時は中学2年生だった亀井蒼太さん(19)も参加した1人だ。

「中学生ながら少しでも街づくりに参加できたことがとてもうれしくて、その後も何らかの形で街づくりに携わりたいと思うようになりました」

実際に球場ができた。球音が響くことが心底うれしかった。前には戻れなくても、前へ進む故郷。「震災で支援をいただいた方に頑張っている姿を見せたり、災害が起きたら募金をしたりするなどの形で恩返ししたいです」と話す。

斉藤春貴さん(26)も球場を貸し切りにして、仲間たちと草野球をした。「みんなで笑いながらのびのびプレーして、この街がたどった11年という時間の重さをふと考えました」としみじみ振り返る。

陸前高田は津波で甚大な被害を受け、市街地の大半がかさ上げされている。「球場の下には、かつての街並みがあるんだ」。3・11以前には数メートル下に広がっていた愛する郷里に思いをはせながら、前を見る。

「内陸からも私立校が合宿しに来る規模で、今年の夏にはイースタン・リーグの公式戦も行われます。球場に訪れる人には、ありし日の街並みや人々の営みを知らない人も多いと思います。でも人口減の町にいろんな人たちが来て、被災地の今を知ってくれるツールとして、この球場は使われていくんだなって」

斉藤さんは「人と土地とを結びつける場所、として」と結んだ。重機の音から、にぎわいの音へ-。次なるスターが産声を上げるスタジアムになるのかもしれない。【ロッテ担当 金子真仁】