正式な野球の記録ではないが、言い得て妙な用語に「サイクル本塁打」がある。1試合に「ソロ、2ラン、3ラン、満塁」と、4種類の本塁打を放つことだ。巨人が今季9月7日のDeNA戦で、4人がかりで成し遂げた。吉川がソロ、ウォーカーが満塁、ポランコが3ラン、仕上げは中田が2ラン。おまけにポランコがもう1本放ち2ラン。球団15年ぶり9度目の出来事だった。

NPBで、1人の選手が「1試合で」達成したことはない。だが、この離れ業を「1日で」やってのけた男はいる。ヤクルトのジョン・スコット外野手がその人だ。

79年5月27日、甲子園での阪神戦ダブルヘッダーが快挙の舞台となった。スコットはこの日の2試合に、いずれも4番・中堅で出場。まず1回の第1打席で、阪神先発の小林繁から左翼に先制2ランを放ち波に乗る。9回には、3番手の江本孟紀から駄目押しの満塁本塁打をかっ飛ばした。

続く第2試合でも、打棒はとどまるところを知らない。8回に山本和行から同点ソロ。そして1点を勝ち越した9回に、安仁屋宗八から駄目押し3ランを放った。

1日のうちにソロから満塁まで4種類すべての本塁打を放ち、合わせて12打点の大爆発だ。「本塁打よりも、勝ちに結び付いたことがうれしい」と、大暴れの助っ人は殊勝に振り返った。

スコットは来日1年目。走攻守すべてを備えた、右打ちの外国人だった。前年78年日本一の立役者、チャーリー・マニエルを近鉄にトレードしてまで獲得した。同年39本塁打を放ち、チームの精神的支柱でもあったマニエルの放出に、球団内外からは疑問の声が渦巻いていた。

新天地でDHに収まり本塁打を量産したマニエルとは対照的に、スコットは苦労が続いた。開幕直後には体調を崩し、打棒も上向かない。特打を言い渡されれば文句ひとつ言わず参加。日本式の徹底した練習で、生まれて初めて両手はマメだらけになったという。

我慢を重ね復調を待った広岡達朗監督に、スコットは同年28本塁打を放ち恩返しを果たした。ところが翌年80年は16本塁打に減少。81年、アクシデントに見舞われる。5月26日阪神戦で、掛布雅之の打球を好捕した際に左膝を故障。皮肉にも、2年前の快挙と同じ甲子園での出来事だった。7月半ばに復帰したものの復調はならず、そのまま退団となった。

そのヤクルトには今「村神様」こと、村上宗隆内野手(22)がいる。今季7月31日阪神戦で3本塁打、続く8月2日中日戦で2本塁打の計5打席連続本塁打で、プロ野球記録を更新した。現在はNPB日本人最多の56本塁打へ向け、足踏みが続く。とはいえ現在1試合4本塁打を期待できる、最有力候補であるのは間違いない。43年前に大先輩が1日がかりで成し遂げた快挙を、いつの日か1試合で達成してほしい。

【記録室 高野勲】(スカイA「虎ヲタ」出演中。今年3月のテレビ東京系「なんでもクイズスタジアム プロ野球王決定戦」準優勝)