侍ジャパンの稲葉篤紀監督(46)が精力的な視察を続けている。今季はシーズン開幕から代表候補の動静を追い続け、26日のヤクルト-広島戦(神宮)で公式視察は11試合目となる。今後は台湾、韓国リーグにも足を運び、敵情を探る。五輪開幕まで1年。稲葉監督の視点に迫る。

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甲子園を訪れた侍ジャパン稲葉監督(右)はDeNA筒香と話す(撮影・奥田泰也)
甲子園を訪れた侍ジャパン稲葉監督(右)はDeNA筒香と話す(撮影・奥田泰也)

侍ジャパンの公式スーツをまとい、指揮官は定期的に全国を飛び回っている。19年シーズン、稲葉監督は1カ月に2~4試合のペースでリーグ戦を視察している。

傍らには建山投手コーチと井端編成戦略担当兼内野守備走塁コーチも携える。先んじて井端コーチに解説の仕事が入っていれば、視察も合わせて予定を組み、チェックを共有することにこだわった。小久保ジャパンで各球団に入閣していないスタッフは、小久保監督を含め、おのおので評論家としてリーグ戦を見ていたが、公式視察の形ではなかった。

2月5日、巨人原監督(右)と談笑
2月5日、巨人原監督(右)と談笑

視察は、稲葉監督にとって貴重な情報収集の場だ。候補選手の能力チェックは己の目だけでなく「取材」によっても行われる。5月15日のソフトバンク-西武戦。育成出身の気鋭の左腕、ソフトバンク大竹の印象が強く刻まれた。「150キロをバンバン投げるわけじゃないが、打者が差し込まれている姿を見ると、タイミングの取りづらさがあると思う。相手チームの印象も聞きながら見ていきたい」と話した。

自分が打席に立って、感覚を確かめることはできない。だが現場で戦う相手は、生の対戦感覚を持っている。実際にタイミングが取りにくいのか。対戦を重ねれば、慣れてくるものなのか。外国人打者への有効性は。代表監督として吸い上げることで、選手目線を仮想できる。

6月20日、甲子園での阪神-楽天戦を視察する稲葉監督(中央)ら侍ジャパンスタッフ
6月20日、甲子園での阪神-楽天戦を視察する稲葉監督(中央)ら侍ジャパンスタッフ

各球団の監督には鋭敏な国際感覚を持つ指揮官も多い。6月18日に巨人-オリックス戦を視察し、09年WBC優勝時の巨人原監督と話し込んだ。「プッシュされたというか、個人名は言えないが『この選手はどうするんだ?』という話はしました」。09年は巨人でも控えだった亀井がメンバーに加わった。国際大会だからこそ必要になる、見落としがちな“プラスワン”の戦力がいる。

同20日には阪神-楽天戦に足を運び、阪神矢野監督と五輪談議に花が咲いた。「矢野監督は40歳で代表に入り『コーチ兼任ぽい感じだった』という。捕手に誰を入れるかという話にもなった」。歴代の代表チームには正捕手が存在したが、黒子役の控え捕手の働きが重要なのは実体験から共有している。

23日、日本ハム栗山監督(右)と
23日、日本ハム栗山監督(右)と

行脚は続く。公式視察ではなくても、古巣日本ハム戦や、親交の深いイチロー氏の引退試合となったマリナーズ-アスレチックスの日本開幕戦も見守った。直接的な代表活動ではない。だが頭の片隅には、日本が金メダルを取るための視点がこびりついている。見るもの、聞くもの、すべてが20年への頂点へと通ずる。(つづく)【広重竜太郎】