<センバツ高校野球:市和歌山1-0県岐阜商>◇23日◇1回戦

今大会完封一番乗りを決めた市和歌山・小園。プロ野球に40年以上携わってきた田村藤夫氏(日刊スポーツ評論家)は好投の背景に捕手松川の存在を挙げた。

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バッテリーというのは、2人の息が合って、初めて力を発揮する。市和歌山の3年生バッテリー、小園健太投手-松川虎生(こう)捕手は、信頼関係を構築している。

投手の調子は試合になってみないと分からないもの。立ち上がりの小園はストレートは抜け、制球は定まらない。勝負球としてストレートは使えなかった。

7回、マウンドで言葉を交わす市和歌山・小園(左)と松川(撮影・前田充)
7回、マウンドで言葉を交わす市和歌山・小園(左)と松川(撮影・前田充)

こういう時こそ、捕手の力量が問われる。調子がいい時は「投手が投げやすいように」でいいが、不調の時にどうするか。その試合でのいいボールを見つける。それが捕手の大きな役割になってくる。

カーブ、チェンジアップ、ツーシーム、カットボール、スライダーを投げていたが、カットの変化にキレがなく打たれていた。そこで、松川はスライダーに可能性を見いだす。右打者への勝負球として外角へスライダーを使いはじめてから、小園のボールのキレが良くなってきた。小園は8個の三振を奪っているが、6個はスライダーでの空振り三振だった。

悪いなりに試合の中で何とかできたのは、単にスライダーを軸にしたからではなく、2人のコミュニケーションが円滑ゆえに、小園も松川が軸に据えたスライダーを、自信をもって投げ込むことができたのだと感じる。

松川は5回が終わった後のグラウンド整備中、ベンチで小園の後ろから笑顔で寄って行くと、肩をさすりながら笑って話し掛けていた。見ているだけで、松川と小園の信頼関係が良好であることがうかがえた。中学からバッテリーを組んできた背景もあるのだろうが、話し掛けるタイミング、言葉のチョイスを含め、松川は小園の性格をよく観察しているように映った。そして9回守備を終えたベンチでは、今度は小園が8回裏の2死満塁で右飛に終わった松川の頭を、やはり笑いながら、そっとたたいているのが見えた。

捕手がいての投手。本当にいいバッテリーだ。3番を打つ松川は肩も強く、捕球してから投げるまでが速い。頼もしい主将として小園は松川に全幅の信頼を寄せているだろうと感じた。

◆田村藤夫(たむら・ふじお)1959年(昭34)10月24日生まれ、千葉県習志野市出身。関東第一から77年ドラフト6位で日本ハム入団。ロッテ-ダイエーを経て98年引退。引退後も99年から21年間、ソフトバンク、日本ハム、中日などのバッテリーコーチなど務めプロ野球界に携わった。