侍ジャパン24人の選手が持つ武器やストロングポイントにスポットを当てる連載「侍の宝刀」。広島鈴木誠也外野手(26)は、MVPを受賞したプレミア12でも発揮した「適応力」で打線のけん引役を担う。

19年11月、プレミア12でMVPに輝いた鈴木誠(中央左)はトロフィーを授与され笑顔
19年11月、プレミア12でMVPに輝いた鈴木誠(中央左)はトロフィーを授与され笑顔

国際大会での強さは、MVPに輝いたプレミア12で証明済みだ。データがほとんどない初対戦の投手が多い中、鈴木誠は全試合で4番を務め、打率4割4分4厘、3本塁打、13打点など7部門で12カ国トップの数字を残した。19年は自身初タイトルとなる首位打者を獲得。年々、打者としてのすごみを増している。

その中でも最大の武器は「適応力」にある。

相手投手との間合いや自身の状態によって、打撃フォームやタイミングの取り方、アプローチ法を変えられる。練習での“遊び心”が、打撃の引き出しを増やしている。昨季までのフリー打撃では、全球同じフォームで打ち続けることはなかった。直立状態で構えたり、ノーステップにしたり、さまざまアプローチを試す。

フォームも日本球界の選手や米大リーグの選手をまねて打つことも珍しくなかった。それが実戦での変幻自在の打撃につながっている。相手投手のタイミングが合わないと感じると、その時々でベストな形、アプローチを探る。いい意味で、自分の形にこだわらない。以前「打撃は投手との勝負なので、打つか、抑えられるかの戦い。Hランプをともすためにどうしたら一番いいのかを考えている」と話していた。練習では理想を追い求めるが、実戦では一転して現実主義者と化す。

鈴木誠のWBC、プレミア12成績
鈴木誠のWBC、プレミア12成績

今季は打撃の根幹となるフォームを大きく変えた。オフからキャンプを通して取り組んでシーズンに入ったが、まだ固まっていない。さらに5月中旬の新型コロナウイルス感染、6月のワクチン接種の副反応と、コンディション悪化が続いたことがさらに難しくしている。「もう1回自分の体を見直して、まずはやれることからやっていこう」。技術面ばかりに気を取られるのではなく、まずは肉体面の強化に重点を置いた。困難な状況下でも発揮されたのが「適応力」だった。

状態は上向き傾向にある。7月は12試合で無安打は1試合のみ。月間成績は打率3割9分5厘、5本塁打、13打点。6月末まで2割8分8厘だった通算打率を3割6厘まで上げた。実戦の中だけでなく、現状を冷静に見つめて対応することで、思わぬアクシデントを乗り越えられた。本人の中ではまだ万全ではない。「無理にどうしようとかは思わず、できることをやっていければ」。東京オリンピック(五輪)本番はもちろん、初戦の28日までの調整期間でも、きっと「適応力」は発揮される。【前原淳】