投球を支えてくれたのは、左手のグラブだった。昨秋県準優勝を飾った細田学園(埼玉)の右腕、飯吉陽来(はるく)投手(3年)が愛用するネービーブラックのグラブには、3羽の鳥と王冠がデザインされた刺しゅうが入っていた。都内に工場兼店舗を構えるグラブ・ミット専門店「Trinity(トリニティ)」のものだ。

「友だちのお父さん」が作ったグラブは、手にした瞬間から感触が違った。「最初に着けた時からピッタリでした」と振り返る。昨秋から使い始め、日々きれいに手入れをして大事にしている。「ピッチャーゴロもすごく捕りやすい。グラブに、自然とボールが入ってくるような感覚です」と表現する。

作ったのは、和光シニア時代のチームメートの父、佐々木一行さん(39)。グラブの作り手として17年、昨年4月から同メーカーの代表を務めている。入った瞬間に革のにおいに包まれる工場では、リズムよく鳴るミシンの音が心地いい。今夏はコロナ禍のため、楽しみにしていた球場観戦はできなかったが「結果は気になって、速報を細かくチェックしていました。息子と同学年でもありますし、グラブの縁でつながった選手は、みんな息子のような感じで応援しています」と言う。

高校最後の夏の県大会、「背番号18」を背負った飯吉は7月16日の3回戦東野戦に先発した。5回を82球、被安打5の4奪三振で無失点。15-2の8回コールド勝ちを引き寄せた。元々は外野手だったが、投手に専念するきっかけは昨秋だった。秋季県大会準々決勝、花咲徳栄戦に先発し、8回0/3を投げて4安打2失点。直球と球速差のないカーブや、縦に落ちるスライダーを武器に、奪三振は0で強力打線を打ち取った。一躍脚光を浴び、以降は投手に専念。球速はひと冬で10キロアップし、最速125キロになっていた。「戦力になりたい。チームの一員として活躍したい」と話していた今夏、先発投手として結果を残した。

幼稚園ではサッカーをしていたが、「結果が出ると楽しい」と小学校から野球にのめり込んだ。ひとまず、高校で区切りをつける。でも、離れるつもりはない。グラブは、ステアレザーといわれる生後2年を経過した雄牛の革を使用した強度に優れたもの。使うほど手になじむ相棒とともに、これからも野球を楽しみながら続けるつもりだ。【保坂恭子】

細田学園・飯吉が使用する「トリニティ」のグラブ
細田学園・飯吉が使用する「トリニティ」のグラブ