新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、監督やコーチなど首脳陣は試合中のベンチ内でマスクを着用している。ゆえに、表情が読み取りにくいのだが、特にヤクルトの高津臣吾監督は表情が変わらず、相手ベンチからすれば、戦いにくさを感じるのではないだろうか。

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高津監督を見ていて感じるのは、我慢の采配である。我慢しながら、最後は選手を信じて起用。選手はそれを感じ、結果を出すという好循環が生まれている。プロ野球の1軍で育てながら勝つのは非常に難しいが、昨年の我慢が実って、今年の結果につながっているのではないか。

例えば、投手起用でも我慢は見えた。監督就任1年目の昨年、打たれることを覚悟の上で、投げさせたのだろうと感じた場面を何度か目にした。勝負師として、打たれることを覚悟しながら、投げさせるのは実につらいものだが、それが選手の成長につながったのではないかと感じる。

10月26日、DeNA対ヤクルト 3回表、中村悠平の左越え2点適時二塁打に手を上げて喜ぶ高津監督
10月26日、DeNA対ヤクルト 3回表、中村悠平の左越え2点適時二塁打に手を上げて喜ぶ高津監督

高津監督のその決断は素晴らしいし、その思いに応えた選手たちも大したもの。どちらもなかなかできることではないし、リーグ2連覇中だった巨人に勝ったのだから、賛辞の言葉を贈りたい。

高津監督の采配から感じる我慢としつこさを生み出したのは何だろうか。それは現役時代にあると推測する。私がヤクルトで投手コーチを務めたころ、クローザーを任せたが、ピンチでも90キロ台の抜き球であるシンカーを平気で投げ込み、打者を牛耳った。

一般的に、投手はピンチの時ほど遅い球を投げるのを嫌う傾向がある。速い球の方がバットに当たる確率が低いという投手心理が働くのか、私が現役のころもピンチでスローカーブは投げられず、速いカーブを勝負球に使った。

特に抑えはそうで、現在の球界を見てもほとんどが最速は140キロ後半~150キロを超える速球派。フォークなどの縦変化を勝負球にするが、高津監督は抜群の制球力と抜き球でピンチを脱した。強い精神力、技術が必要で、この投球が我慢としつこさを身に付けさせたのだろう。

ロッテの井口監督も表情を変えず、相手チームが嫌がる作戦を仕掛けていく。普通であれば、ベンチの雰囲気や体の動きで作戦を読み取れる場合もあるのだが、非常に読み取りにくく感じる。日本ではダイエー(現ソフトバンク)、ロッテ、メジャーでも複数球団でプレーし、多くの修羅場を経験してきたのだろう。

10月19日、ソフトバンク対ロッテ  6回裏、投手の交代に向かう井口資仁監督
10月19日、ソフトバンク対ロッテ  6回裏、投手の交代に向かう井口資仁監督

選手起用を見ても、ベテランから若手への切り替えに着手し、采配では足を使った「動く野球」をする。ベテランを使えば何となく安心感があって、ミスも少なく、無難な野球になる。その一方、若手が多くなるとミスは出やすくなるが、スピードがあって、伸びしろのある若手は試合に出れば成長するので、総合的にはチーム力は上がる。

今のロッテは井口監督の指揮のもと、チームもゲーム内容も大きく変わろうとしているのが見える。投手では佐々木朗希、野手では藤原恭大、安田尚憲、山口航輝ら高卒4年目以内の若手が台頭。育成とともに、チームの弱点を補う補強で層を厚くすれば、近々常勝軍団ができるのではないだろうか。(つづく)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ) 1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算10年で24勝27敗。79年からコーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団で投手コーチを務め、13年からロッテで指導。17年から19年まで再び巨人でコーチを務めた。