第94回選抜高校野球大会(3月18日開幕、甲子園)の出場校が28日に発表される。“春”を待つ21世紀枠(3校)の候補校を紹介する。第3回は、伊吹(滋賀)。

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雪深い湖北から甲子園1勝を狙う。伊吹の校庭後方にそびえる真っ白の伊吹山は昭和初期、最深積雪世界記録の11メートル82センチを観測したほどの豪雪エリアだ。1月下旬、グラウンドに約40センチの雪が積もった。野村勇雄監督(50)は「冬場はモチベーションの維持が大変。12月27日から、ずっと銀世界です」と話す。ウオーミングアップは雪上サッカー。工夫を凝らす。

長靴を履いてキャッチボールを行う。野手はスコップで雪を掘り起こして足場を作り、ティー打撃で振り込む。雪上でのハーフ打撃で汗を流した。主将の中川蒼河(そうが)内野手(2年)はナインに伝えた。「雪を逆手に取って自分たちならではのメニューがあるぞ」。最速139キロのエース福井希空(のあ)投手(2年)も「足を上げて投げ終わる形を意識しています。雪の上は余計にぐらつく。不安定なのでしっかり体重移動を」と話す。投手陣は新雪の上で両翼ポール間を6本走るなど、不便な環境で足腰を鍛える。

21世紀枠の候補校に選ばれて「打倒大阪桐蔭」が合言葉になった。指揮官がハッパを掛け、選手も呼応。福井は「センバツに選ばれれば、初戦で大阪桐蔭と当たる可能性もある。神宮で優勝して、いま一番強い。どうやって勝つか考えて練習しろ、とよく言われます」と明かした。動画で昨秋の明治神宮大会を優勝した大阪桐蔭など強豪私立の練習をチェックし、気持ちを高める。年明けは毎週日曜日、雪がない県中部の野球場で体を動かした。

県立校で春夏通じて甲子園出場はないが志は高い。野村監督も「公立が勝つことが意味があるんやぞと。強豪校にぶつかって泥臭い試合で、何とか1点差で勝つ、粘り強い野球をできれば最高です」と意気込む。昨秋は滋賀大会準々決勝で夏の甲子園4強の近江に2-3で9回サヨナラ惜敗。中川は「この冬は打撃です。チャンスを作っても1本出なかった」と悔しがる。

「いまから、リスト1000本、行きます!」

手首を利かせて重いバットで「8の字」を描く軌道などで1000スイング。前腕の筋力を鍛える。「押し込む力を。甲子園は140キロ以上がざらにいます」と中川。「まずは甲子園1勝が目標です」と意気込んだ。早朝の7時過ぎ、同校と隣の小学校前の道路を雪かきする姿がある。5年ほど前、選手が自発的に始め、いまも続ける。米原市や長浜市など地元から通う心優しき29人は、この春、緑と黒土の甲子園で躍動する姿を夢見ている。【酒井俊作】

雪が降り積もった校庭でハーフ打撃を行う伊吹の中川蒼河主将
雪が降り積もった校庭でハーフ打撃を行う伊吹の中川蒼河主将