WBCに挑む侍ジャパンのメンバー30人が決定した。連載「侍の宝刀」で、30人の選手が持つ武器やストロングポイントにスポットを当てる。

フィールディング練習する日本ハム伊藤(撮影・黒川智章)
フィールディング練習する日本ハム伊藤(撮影・黒川智章)

世界レベルの強心臓と、どんな場面にも適応する器用さ。日本ハム伊藤大海投手(25)には、得難い武器がある。2年前の東京オリンピック(五輪)。コンディション不良で辞退を余儀なくされた巨人菅野に代わり「ラストサムライ」として侍ジャパンに追加招集され、持ち前の肝っ玉で世界に立ち向かった。日本ハムで、先発としてプロのキャリアをスタートしたばかり。代表では救援という普段とは違う役割を与えられながら、1年前まで大学生だったとは思えない度胸で、侍投手陣の救世主となった。

大会も大詰めを迎える頃、首脳陣の間では、こんなやりとりがあったという。「ヒロミは競っている場面や終盤でも行けそうじゃない?」。稲葉代表監督の言葉に、建山投手コーチ(現日本ハム投手コーチ)は大きくうなずいた。同コーチが言う。「度胸のある選手には2種類いる。鈍感で肝が据わっているタイプと、考えて対策を練った上で(本番でも)自分を表現できるタイプ。彼は後者。驚きもしたけど、自信を持って送り出せた」。準決勝の韓国戦では追い付かれた直後の7回からマウンドへ。2回無失点で味方の勝ち越しを呼び込んで勝ち投手になった。相手チームからの抗議に顔色を変えず、たっぷりとロジンを手に付ける「追いロジン」がネット上で話題になったのも、この試合だ。金メダルへの道筋を描く上で、最終的に勝ちパターンを支える1人として信頼を得た。

五輪後の本人の発言が秀逸だった。「何を言われても、別に僕はメンタルを削られない」。「追いロジン」に批判的な声に対する反応だったが「伊藤大海」という投手の良さを、よく表している。批判や中傷に負けない芯の強さは、国際大会で強みを増す。走者がいる場面でのスクランブルも、何でもござれ。ジョーカー的な役割を託せる投手だ。侍ジャパン栗山監督が言うように「どこでも誰でも行ってくれちゃう」高い適応力は、人数が限られた代表チームで貴重なピースとなる。

伊藤の主な国際大会成績
伊藤の主な国際大会成績

今オフは、単身渡米し、憧れのダルビッシュのもとで“一流の思考”を学んだ。不安な時は「自分を信じるしかない」と言う伊藤は「臨機応変に、いろんなところで対応できるように準備したい」。過去最強の呼び声高い侍の中で、名バイプレーヤーは静かに刀を研ぎ、出番を待つ。【中島宙恵】