日大三高野球部から弁護士へ道を切り開いた岩切太輝さん(24=23年3月東京学芸大・教育学部卒)は、三木有造監督(49)、白窪コーチに支えられながら日大三高野球部を巣立った。
それでも情熱はなえない。岩切さんは3年夏で引退すると、東大を目指し11月に模試を受けた。偏差値18。だが黙々と机に向かう。宮崎出身だが、そのまま寮に残った。
岩切さん 引退してからです。三木さんが本当に良くしてくれて。白窪さんと三木さんと、そして監督さん(小倉全由前監督)と話してくださって、僕が勉強に集中できるように、1人部屋にしてくれました。それまで、三木さんからは厳しい言葉をかけられることが多かったです。「何のために日大三高に来たんだ」って。
中学時代に135キロをマークする大型左腕だった。中学2年の秋、小林市立三松中に三木部長、小倉監督(いずれも当時)が訪れ実力を確認していた。日大三へ進学し、苦しい高校野球が始まった。
岩切さん 小倉監督の下で野球がしたくて三高に進学しました。ですが、周りのレベルが本当に高くて、ついて行けるのか、不安になりました。そういうことも精神的に影響したんだと思います。投げ方が分からなくなって…。
三木監督はもがく姿を見ていた。
三木監督 ぎくしゃくした投げ方になってましたね。本人が一番つらかったと思いました。
岩切さん 三木さんには何度も厳しいことを言ってもらいました。「何をしにここに来たんだ」「何も残らずに高校野球は終わってしまうぞ」「三高野球部に入って満足ではだめだ。何をしたかが大事だ」。今もよく覚えています。3年になって、少し自分のボールが投げられるようになり、実戦で使ってもらった時「いいボールを投げられるようになったじゃないか」って言ってもらえたことが、本当にうれしかったです。
担任が三木監督だった。岩切さんなりにその人柄は分かっていたはず、だった。しかし、本当の姿は引退後に知る。
岩切さん 引退後、三木さんは本当に僕が勉強に専念しやすいようにしてくれました。正月も、僕が帰省せずに勉強していたら、三木さんも寮に残ってくれて、食事に何度も連れて行ってくれて。正直言って、選手だったころは嫌いでした。いつも厳しいことばかり言われていましたから。ですが、本当は一番に僕のことを考えてくれていたんだと、引退してからハッとさせられました。嫌われ役に徹して、あんなに厳しくしていたんだと。
白窪コーチもセンター試験では会場まで車で送ってくれた。孤独な勉強の日々に、白窪コーチは何度も気分転換に外食に連れて行ってくれた。周囲の気遣いが岩切さんの挑戦を支えた。
選手としては公式戦出場なしと苦しかった野球部で、決して1人ではなかった。2年時、宮崎を集中豪雨が襲った時、思いがけないことを知る。小倉監督の愛妻敏子さんが、岩切さんの実家に災害を心配し、お見舞いの連絡を入れていた。
岩切さん 僕は試合にも出てないのに、僕の実家を覚えていてくれて…、わざわざ家に電話までかけてくれて…本当に驚きました。そこまで気に掛けていただいてるんだって、本当にうれしかったです。
主力選手だけが気に掛けられるわけではない。日大三では、試合に出る、出ない、ベンチ入りする、しないで区別されない。上を目指し必死な選手は指導者全員で見る。
遠征に主力が行けば、居残り組の様子は白窪コーチが把握して逐一、小倉監督、三木部長に報告していた。野球部OBは「主力じゃないからってあきらめるやつはいません。白窪さんが見てくれているとみんな分かってましたから」と言う。
いくつもの目で見守られ、日大三高野球部は団結力の強いチームになっている。そして、風通しの良さもこの野球部の特長と言える。
今回、年末の野球部寮を訪ねた時、談笑していた岩切さんは、三木監督の横で、さらっと「三木さんのことは大嫌いでした。アハハハハ」と言った。
すると、三木監督はあたかも「そんなの知ってるよ」という顔つきで、何の違和感もなく穏やかにうなずいていた。
「大嫌いでした」と本人を前に言ってしまう岩切さんも大胆。その本音を受け入れる大きな安心感を漂わせる三木監督の度量の大きさ、人間の厚みがうかがえた。【井上真】(つづく)
◆岩切太輝(いわきり・たいき)1999年(平11)8月15日生まれ、宮崎県小林市出身。小林市立三松小から三松中を経て、日大三高に進学。1浪して東京学芸大に進学し昨春卒業。今春から司法修習生としての生活が始まる。家族は、小林秀峰高校で野球部監督を務める父隆公(たかひろ)さん(52)と母、妹の4人家族。184センチ、86キロ、左投げ左打ち。
◆予備試験(正式名称=司法試験予備試験) 司法試験を受験するには受験資格が必要。予備試験に合格するか、法科大学院を修了する必要がある。予備試験は法科大学院を修了した者と同等の学識を有するかを判定する。司法試験法第5条に基づき毎年1回行われる国家試験。2011年から実施。合格率は約3~4%、最難関の国家試験の1つ。予備試験に合格すれば、およそ90%近い確率で司法試験にも合格すると言われている。






