矢野燿大監督(右)は藤本敦士コーチ(中央)とブロックサインのパターンを確認する(2018年11月13日撮影)
矢野燿大監督(右)は藤本敦士コーチ(中央)とブロックサインのパターンを確認する(2018年11月13日撮影)

チームは1シーズンの土台を築くための大事なキャンプに出払った。私は間もなく80歳。動きが少々鈍くなって我が家でシーズンインに備えて英気を養うことにした。そこで今回はもう一度プロ野球の今と昔を比較する“今昔物語”をひねり出してみることにした。

プロ野球界と時間。試合時間に制限はないに等しい競技だ。あまり関係ないように思えるが、どうしてどうして、よくよく考えてみると試合時間が大幅に長くなったり、移動時間は短縮。球界のシステムが大きく変更した時期があった。

試合開始時間の移り変わりに触れてみる。いつ頃までだったかは定かでないが、私が入団した時代は19時の開始が当たり前。要するに一般の会社の勤務時間が終了して多少のゆとりを持って観戦に行ける時間だったのに、それがいつの間にか18時30分になり、急ぎ足で球場へ駆けつけないと間に合わない18時開始へと移行していった。その理由は各チームの野球が複雑化して試合時間が長くなったことと、お客さんが帰途に就く時間を考慮したからだった。試合時間が長くなった根源は主にサインの複雑化だ。ベンチから出す作戦面のサイン、バッテリー間の球種を決めるサインを、各チームが見破ろうとする気運が高まった。当然見抜けば試合は有利に進められ、勝つ確率は高くなる。逆に盗まれようものならたまったものではない。勝敗に左右する。サインはますます複雑になっていった。

バッテリー間のサインでは--、見破ることに成功したなら球種が分かる、バッターは狙い球を絞って向かっていける。バッター有利。一時はゲーム中の外野スタンドに偵察隊を送り込み、双眼鏡などでバッテリー間のサインを解読。あの手この手を駆使してバッターに伝達していた時期があったほど。野球が複雑化した背景はあまり好ましくない行為からだったが、勝ちにこだわるが故の行動。見破る方と隠す側の探り合いが激化。ゲームはグッと長くなってきた。

あまりにも見え見えの偵察隊はいなくなったが、各チーム“万が一”に備えてサインは相変わらず複雑なままだ。我々現役時代の1試合の平均時間はだいたいが2時間と15分ぐらいだったが、今や3時間は当たり前。時には4時間を超える試合がある。こんな体験もした。私、9年間球団の試合管理人代行をしていたが、甲子園球場の試合で審判の判定を巡ってクレームがつき、ゲームの終了が日付変更線を越えたことがあった。心配はお客さんの足だったが、この一件、お陰さまで親会社が阪神電鉄。甲子園駅から臨時列車を増発してくれて事なきを得た。確かに抗議の時間は長かったが、試合開始が18時でこの有様ですから……。

長時間ゲームをついボヤいてしまいましたが、昔のサインといえばバッテリー間は捕手が股間でグー、チョキ、パーを中心にした割と単純なやり取りで決めていたし、作戦面にしてもチームの監督が三塁コーチャーズボックスから腕、胸、顔などをタッチして打者、走者に伝達していた。当時、複雑という感覚は全くなかった。

ところが、現在のバッテリー間、昔と同じようにキャッチャーが指を操って股間でサインを出すまでは変わっていないが、チームによって差はあるものの、同じ指のサインにイニングによってA、B、C、D、もしくは1、2、3、4などのキーサインを決め、その都度「この回は“A”でいこう。今度は“D”でいこう」などバッテリー間で決めているので、例えば同じチョキでもAとDでは球種が異なり相手には分かりにくい。作戦面でも同じようにキーサインがあって、そのキーがイニング毎に変わったりするのでなかなか見抜けない。ましてや、監督はグラウンドに出なくなった。ベンチのスミに隠れて、ベンチにいる誰かに伝え、その誰かが三塁コーチャーに何らかの形でサインを送っている。

作戦が相手にバレてしまえば勝ち目はゼロに等しい。サインが複雑になるのは当然。選手にしても勝負どころでサインを見落として試合に負ければ戦犯扱いになる。だから、タイムをかけバッターボックスを外して、サインを確認する選手をよく目にする。長時間ゲームはなかなか解消されないだろう。

試合時間は長くなったが、短縮されたのは移動時間。1964年10月1日。あの夢の超特急、東海道新幹線が開通。いまや東京-大阪間は2時間台。日程に当日移動が組み込まれ、昔は月、金が移動日で日曜日にダブルヘッダーを行っていたが、近年では移動日は月曜日のみ。金曜日はゲーム日となり、日曜日はシングルに変更の日程になっている。

長い、ピリッとしない、帰宅が遅くなった。ファンの皆様に迷惑をかけている面はあると思いますが、サインの複雑化は野球の近代化につながる。試合の中味は、選手個々、野球そのものの進化によってプレーが充実した。豪快な1発があれば、ワザありの一打あり。150キロ超の速球に、大きくストーンと落ちる変化球。緻密な作戦もあって魅力は満載。筋書きのないドラマ。やっぱり野球は面白い。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)

プロ野球の歴代最長試合を表示する甲子園球場のスコアボード、終了時刻は「0時26分」だった(1992年9月11日撮影)
プロ野球の歴代最長試合を表示する甲子園球場のスコアボード、終了時刻は「0時26分」だった(1992年9月11日撮影)