金足農の吉田輝星
金足農の吉田輝星

 元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載。56回目は「甲子園での高校野球で球数制限は必要か否か」です。

 先日、高校生の球数制限に関するニュース報道があった。

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 第12回U18アジア野球選手権大会(9月3日開幕、宮崎)で球数制限の導入が検討されていることが16日、分かった。侍ジャパンのトップチームが出場するWBCでは「投手起用に関する制限」として適用され、U12やU15でも採用されているが、高校世代であるU18のカテゴリーでは初となる。

 投手の投げられる球数を最大105球とし、その場合は4日間の休息を義務づける。球数しだいで登板間隔の条件を設ける形で、2日続けて登板し、計50球以上投げた場合、少なくとも1日の休みを必要とし、4日連続の投球は認められない。なお、球数が上限に達した場合でも、その打者との対戦が終了するまで投球は可能となる。来年以降に予定されるU18ワールドカップも同様のルールが適用される見通しだ。

 高校野球では、選手の健康管理、故障予防の観点から、国際大会で既に採用されていたタイブレーク制を導入した。延長13回無死一、二塁で開始し、今夏の100回大会で、ここまで2試合が行われ、歴史的な1歩を踏み出した。甲子園と国際大会の主催は異なるが、今後の新たな展開が注目される。

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 国際大会で球数制限導入された場合、甲子園ではどうなるか。

 結論から言えば「現状のままで良い」というのが私の意見。肩、肘の故障予防のため、今春のセンバツ大会からタイブレーク制(13回から)が導入されたが、実際に実施されたのは今夏の甲子園が初だった。ここまでタイブレークは2試合あるが、佐久長聖-旭川大高戦の延長14回が最長イニングだ。

 かつて「ロングゲーム」では、79年夏3回戦の箕島-星稜戦(18回)、98年夏準々決勝の横浜-PL学園戦(17回)などがあった。しかし、00年のセンバツから18回制から15回制(引き分け再試合)に短縮された。

 無死一、二塁から始まるタイブレークで得点が入りやすくなり、延長のイニングが長くなるリスクは減った。当然、投手への負担も減っただろう。これ以上、球数制限をする必要はないと思う。

 球数制限を甲子園だけ導入して、地方予選には導入しないでは、道理が通らない。球数制限の導入は、能力の高い選手を集め、選手層が厚い私立の強豪校に有利に働くと思われる。だから現状のままで良いと思う。

 しかし、どうしても導入すると言うのなら、9回制を7回制にすれば、少しは各学校の不平等感は解消されると思われる。

 球数制限は、大学、社会人野球やプロで野球を続ける可能性のある選手には重要かも知れない。しかし、アマチュアスポーツの高校野球において、全体のルールとして導入するのはいささか疑問で、導入する場合は個人、あるいはチーム内で制限を設けるべきではないかと思う。

 私は高校時代に鳴門工で野球をしたが、同じ部員で高校卒業後、野球を続けたのは私1人だった。1つ上の先輩にも聞いたが、1人しかいなかった。草野球などを除き、本格的な野球を継続する選手は一握り。野球部でも高校卒業後は、将来の仕事に向けて進む人が大部分で、全員がプロ野球を目指すわけではない。

 肩と肘は消耗品と言われるが、実際、人によって部位の強度が異なり、どこまで制限を設ければけがをしにくいか、見極めは難しい。

 WBCや世界大会で導入しているからといって、アマチュアの高校野球に取り入れるのとは少し違うのではないか。世界大会はハイレベルな投手がブルペンに多くいるからこそできる話で、球数制限をかけても各チームにデメリットがほとんどない。

 高校野球では、特に公立校でエースと2番手投手の差があるチームが多いと思う。 

 今夏の甲子園では、ベスト4入りした公立校は金足農の1校のみ。エース吉田投手が県大会から1人で投げ抜いている。公立校は、強豪校のように選手をたくさん集めることができにくいため、金足農の吉田投手のように超高校級のエース1人に頼らざるを得ない。吉田投手は150球を超える試合も少なくないが、105球の球数制限があれば、4強への道のりはさらに厳しかったかも知れない。

 大阪桐蔭など先発完投能力のある投手が数人いるチームにとって、球数制限はあまり影響もないだろうが、部員数がギリギリのチームは、球数制限が甲子園への足かせとなるのではないだろうか。

 球数制限を明記する必要はなく、導入するというのなら7回制でいい。投手は1イニング15球が目安だが、7回なら105球。リトルリーグや少年野球でも7回制はある。

 野球のあるべき姿はあくまで9回制。どうしても球数制限導入というなら、7回制が落としどころか。

 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。

横浜対金足農 9回表の投球前、目を閉じ集中して「侍ポーズ」をとる金足農・吉田(撮影・前田充)
横浜対金足農 9回表の投球前、目を閉じ集中して「侍ポーズ」をとる金足農・吉田(撮影・前田充)