阪神鳥谷敬内野手は「風景の変化」を克服した、と言えるのではないでしょうか。9日に発表されたゴールデングラブ賞で三塁手として選出されました。その一報に触れ、開幕前に広島新井貴浩内野手が言ったことを思い出したのです。

 「鳥谷はショートですか? サード? なかなか簡単じゃないと思いますよ。慎也さんも謙二郎さんも言ってました。ショートやってたからって簡単にサードできるもんじゃないって。風景が違うらしいです」

 もう1つの古巣の状況と仲のいい鳥谷を気遣って真剣に言いました。「慎也」は日刊スポーツ評論家の宮本慎也氏で「謙二郎」は広島前監督の野村謙二郎氏のことです。ともに現役晩年に遊撃から三塁にコンバートされた経験があります。

 このオフからヘッドコーチとして古巣ヤクルトに復帰する宮本氏に、シーズン中、新井が言っていたことを聞きました。宮本氏は苦笑しながら「三塁をなめていたということではないですけどね。とりあえず打撃にはプラスだと思います」と話しました。

 はたして鳥谷は打撃面でも復活。5月には顔面死球で鼻骨骨折の負傷を受けながらも試合に出続けました。金本監督2年目の阪神が2位に躍進したことに大きな影響を与えたといってもいいと思います。

 「風景が違う」という新井の言葉が耳に残り、シーズン中、何度か鳥谷に三塁の位置に慣れたかどうか、問い掛けました。

 「いやいや。慣れたとか、そんなの、まだまだ」。寡黙な男らしく、そう繰り返すだけでした。同時にプロとして遊撃手に比べ、まだ自分のものにしていないという意識もあったのかもしれません。

 三塁手について、このオフに阪神の2軍打撃兼野手総合コーチからロッテの2軍監督になった今岡真訪がこんなことを言っていました。

 「サードは必ずエラーするポジションですから。1つの失策で落ち込むタイプの選手には向かないんです」

 内野のポジションで、もっとも鋭い打球が襲う三塁はどうしても対応できないケースがある。それを引きずるようでは務まらないという経験に基づいた考えでした。その意味でもメンタルの強い鳥谷には向いていたのかもしれません。

 チームとしては鳥谷を脅かす若手が出てこなかった今季だったと言わざるを得ませんが、とりあえず長年に渡り、主力である鳥谷の意地を感じたシーズンになったのです。