1年の半分を終え、さらに7月も半分を終え、プロ野球は16日から後半戦がスタートします。特にセ・リーグは1強状態の広島を巨人、阪神らだんごレースを続ける5球団のうち、どこがしっかり追う態勢に入るのか。興味は尽きません。個人的にはやはりここ数年のライバル対決となった広島-阪神で優勝を争う状況になれば楽しいな、と思っています。

 その広島-阪神戦の話です。両球団にとっては後半戦ラストとなっていた7月9日からの3連戦が西日本豪雨の影響で中止になりました。災害関連のニュースとして流れましたが、今更ですが、これはすごいことです。

豪雨災害の影響のため阪神3連戦が中止となり発売所の前に案内が張り出される(2018年7月9日撮影)
豪雨災害の影響のため阪神3連戦が中止となり発売所の前に案内が張り出される(2018年7月9日撮影)

 マツダスタジアム周辺は被害が少なく、強行しようと思えばやれないことはなかったのではと思います。しかし在来線がストップしていたことや、県内で被災した人が多かったことなどを配慮してスパッと中止を決めたのです。

 そう聞けば「そうだろうな」と思いますが、プロ野球が興行であることを考えれば、これはなかなか簡単なことではありません。正直、他球団だったらどうだったろうと想像しました。この決定が出たとき、広島担当経験のある記者たちと「さすがカープやな」という話をしました。

 12球団にあっても松田元という強力なリーダーがいる広島ならではの決定だったと思います。「広島の人たちとともにある」といつも繰り返す松田オーナーの顔を思い浮かべていました。

 興行自体が常にそうですが、人を楽しませる催し物は常に災害の影響を受けます。苦しんでいる人がいるときに、自分たちだけ楽しんでいいのか、という考えがあるからです。特に、なんだかんだ言っても老若男女がいっしょになって楽しめるプロ野球は今も国民的娯楽だけに、その影響は大きいと思います。

 しかし同時に災害と、そこから立ち上がろうとする人々との間にプロ野球が存在するのも事実です。少し振り返っても阪神・淡路大震災の95年に「がんばろう神戸」で頑張ったオリックス、そして東日本大震災から復興のシンボルとして輝いた楽天など、思い出すシーンは多いでしょう。

 そこでいつも思い出すのがイチローの言っていたことです。彼はこういう趣旨のことを言いました。

 「よく『プレーで希望と勇気を与える』などと言う選手たちがいますが、あれは少し違うと思います。それを与えることは誰にもできません。自分たちにできることは常に全力でプレーすることだけです。後は苦しんでいる方々から、それをどう見てもらえるか、ということ。どんな気持ちになるかはその方々でないと分からないんですから」

イチロー(1995年9月17日撮影)
イチロー(1995年9月17日撮影)

 イチローの言うことすべてが正しいとは思いませんが、この考え方には、大きく同感しました。言うまでもなく、野球に特に興味のない人からすれば、プロであれアマであれ、野球選手が「プレーで希望を与える!」と肩に力を入れて話す言葉に大きな意味はないと思うからです。

 念のため、付け加えますがイチローは95年、あと1勝すれば地元胴上げできるというグリーンスタジアム神戸(当時)での4連戦ですべて敗れ、「神戸での優勝を待っていた方々に申し訳ない」といって涙を流しました。すぐ横でその顔を見ていてこちらも泣いてしまったことを覚えています。

 野球の好きな人々、その中にあって苦しんでいる人々にプレーで、結果で、つらい現実を忘れられる瞬間を持ってもらう。それが選手にできることなのです。広島も阪神も他球団の選手もそれは同じ。さあ後半戦が楽しみです。