キタッ! やっとキタッ! 大騒ぎだ。大阪豊中の銭湯「T湯」に集うトラファンはこの時を待っていた。

6月5日、日本ハムを完璧に倒し、カード3連勝、そして通算5連勝と、まずは交流戦の優勝まで見えてきた。サウナで汗をしたたらせ、ここのファン代表、監督と呼ばれる常連さんが、思わず頭を下げた。「いままで矢野監督のこと、散々けなしてきたけど、これからは慎みます」。なんとも現金なこと…。でも、けなしの数々を僕も聞いてきた。

例えば、「矢野に好まれランキング」の話。選手の起用法に触れ、重用されている選手に偏りがあるという説。そのランキングでは1位が坂本、2位が糸原、3位小野寺だったが、ここにきて上昇してきたのが島田。「明らかに彼らは矢野に好かれている。好き嫌い人事はいずれ破綻する」と、ここまで猛烈批判していたが、5日のゲームで小野寺が勝負を決める3点三塁打。島田もいまや1番に定着しているものだから、手のひら返し。「これまでの無礼、ホンマに申し訳ない」と神妙な顔でつぶやくのだった。

阪神のゲームで一喜一憂する。日常が戻ってきた。これまで憂いてばかりだったが、ようやく心の底から喜べるところまできた。「これで借金がひとケタの8にまで減った。まずは順位をひとつ上げて5位になること。そこから着実に上げていけばいいし、いけるんとちゃいますか」。ところが、だ。今年の交流戦には異変が…。

セ・リーグが強いのである。例年、パ・リーグが圧倒する動かぬデータが覆っている。それによって、セ・リーグの中だけの変動がないという事態が起きている。6月5日終了時点で、首位ヤクルトと最下位の阪神との差は11・5ゲーム。これだけ頑張っているのに、交流戦開幕時と、ほとんど変化がない。何となく心が折れる。

だが阪神の戦いぶりを振り返ると、やっと明るい材料が目立っている。交流戦のポイントとして挙げたパの投手のパワーピッチングをいかに攻略するか。ここまで阪神の攻撃陣は力負けしていた。とにかく球威のあるストレートに振り負けていた。

それが、うれしい裏切りとなった。ロッテ佐々木朗希、楽天田中マー君を攻略し、5日のゲームでも、大山が日本ハムの吉田の内角直球を、うまく肘をたたんで豪快にレフトに放り込んだ。

勝負を決めた小野寺の三塁打も力には力のスイングで打ち返したもの。全体でこれが出てくれば、この先、本当に楽しみが膨らんでくる。きっとチームに自信が芽生えているはず。パのパワー投手を打ち崩したことは大きなプラスになっているに違いない。

それが本物かどうか。それを証明する最後の交流戦が待っている。7日からのソフトバンク、オリックスとの6連戦だ。特に最後のシリーズになるオリックス戦には、山本由伸が来る。強いソフトバンクのあとに待ち構える難攻不落の球界のエースとの対戦。阪神の上昇度を知る意味でも、重要な対決を迎えることになる。

かつて関西に南海、近鉄、阪急のパ・リーグ3球団があった時代、たとえオープン戦であっても、阪神相手には異常な闘争心をみせられた。同じ関西のチームで、人気の阪神には絶対に負けられない。そういう時代は終わり、いまは阪神とオリックスだけになった関西球団。それだけにオリックスがパ・リーグの意地と誇りを、阪神にぶつけてくるのは当たり前だ。

まさにガチンコ勝負になる3連戦。その中で阪神打線がどう山本を攻めていくのか。いまからワクワクする。ここまで味わえなかったワクワク感がやっとでてきたことが、うれしい。仮にソフトバンク、オリックス6連戦を4勝2敗以上で乗り切ることができれば、他力だが、交流戦優勝もありうる。

レギュラーシーズンに戻ってからのことを考えても、重要な6試合になる。最後を締めくくって、気持ちを切り替えて、リ・スタートしてほしい。この1週間、期待を込めて見守ることにする。(敬称略)【内匠宏幸】 (ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「かわいさ余って」)【内匠宏幸】 (ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「かわいさ余って」)