8月14日、日曜日の甲子園。早々とチケット完売が伝わった。お目当ては、優勝候補の筆頭、大阪桐蔭の登場である。僕は家で観戦したが、あまりの強さにアングリするしかなかった。19点を奪う攻撃に、相手を2安打完封の投手力。それとともに、残った数字に驚いた。

「失策0」だった。これがすごい。大量点だし、相手打線を封じ込めている。そんな時、必ず顔を出すのが「隙」である。これはプロもアマも同じで、無駄なミスを呼ぶ。ところが、こんな展開で大阪桐蔭は一切の隙を見せなかった。なんだろう。この結果、監督のしつけ、厳しさの成果と、僕は感じていた。

何事にも一切、手を抜かない。それが大阪桐蔭の強さの根源と知った。

そこで育った藤浪晋太郎が13日の中日戦に先発。1失点で負け投手になった。翌日のスポーツ紙の論調はほとんどが藤浪寄りだった。「藤浪を勝たせてやれ!」と援護できぬ打線を大いに攻め立てていたけど、僕は藤浪にあえて負けないピッチングを…と言いたい。

先制点を許す場面。実は1死二塁で、藤浪は暴投している。これで三塁を許し、あのセーフティースクイズを決められたのだ。この日の藤浪が、走者二塁のままなら失点することはなかった、と思えるほどの出来だった。いくら好投しても、最も重要な局面で、悪癖とされたコントロールミスが出た。酷なようだが、隙を作った藤浪には、やはり負けないピッチングを目指してほしい。

ここ何週か、藤浪のことばかり書いてきたので、今回はこれくらいにしておく。ということで、次は4番打者に触れる。佐藤輝がチャンスでことごとく凡退。そのあとのしぐさが僕には気になる。特に三振に終わったあと、(個人的な見方だと断るが)どうもなげやりに見えてしまうのだ。

まだプロ2年目だし、そこまで責任を背負わす必要はない、と擁護する声もあるけど、何年目とかには関係なく4番を任された打者の宿命で、結果が伴わなければ、たたかれて当然。4番バッターはチームの勝敗を握る。それほどの覚悟がないと務められないポジションだ。

僕の中での最高の4番は山本浩二。広島カープを支え、長きにわたって4番を張り続けた。努力した分だけ結果が出ると肌感覚で理解できた。「みんなの前ではやらんよ。4番がもがいているところを見せるわけにはいかんからな。でもひとりになれば世界が違う。とにかくガムシャラやった。要するに4番は強さを示し、弱さを見せない。これが4番の生き方」。1986年、現役を終えた山本浩二の言葉に、4番の重みがつまっている。

今シーズンの残り試合、このままで終わるわけにはいかない。1年目の昨年、三振しても、まったく気にする素振りを見せない大物感に、阪神にようやく4番が誕生する…と正直、思った。でもあれから1年、数字的にも大きく伸びていないし、あの大物感も薄らいでいるような感じが気になる。このままなら普通の4番。これだけはどうしても避けてもらいたい。

いま阪神のベンチの佐藤輝を指導できるコーチがいるのか? ファンからよく聞かれるけど、激変させるだけのコーチング術はないと感じる。となれば佐藤輝自身の問題だ。今季限りでいなくなる監督のもと、何を目指すのか。もっと4番道を追求し、僕は山本浩二、そして金本のような4番に育ってもらいたいと願っている。(敬称略)【内匠宏幸】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「かわいさ余って」)

佐藤輝明(2022年8月14日撮影)
佐藤輝明(2022年8月14日撮影)