さあ2023年シーズンの開幕。直前の順位予想では、多くの評論家が「阪神優勝」としている。現状、圧倒的な1番人気で、根拠も岡田彰布の監督力と豊富な戦力。特に投手陣が強力で、勝つ野球ができるということになっている。

下馬評が高すぎて、少し心配するところもあるが、当の岡田にはさほどの気負いは見られない。それを明かすのがヘッドコーチの平田勝男。直接話す機会があった。

前回の体制でもヘッドコーチとして岡田を支えた平田である。監督の性格、思考は熟知している。「まあ、あの当時を知る人は驚くやろうね。とにかく丸くなったというか、ギラギラしたところが見えない。年齢的なものなのか、あえてそうしているのか。とにかく僕には、大きく違うところがわかる」。そういってニヤッとするのだ。

あの当時…とは2004年から2008年までの5年を指すが、40代半ばの監督は常に燃えていた。何でもかんでも自分の考えを押し通していた。だからコーチ陣には厳しくあたり、かなりの注文を出し続けた。選手には何も言わないが、コーチには時に怒りの矛先を向けた。

岡田は変わった? 身近な人間からそう聞くが、どうしても気になるところがある。それはコーチ陣の声が、ほとんど明かされてない部分なのだ。スポーツ新聞の情報でも、コーチのコメントはほとんどない。紙面に出るのは岡田の言動ばかり。「岡田語録」で、語りまくる中身は、確かにおもしろいし、興味をそそるものばかりだが、ここまで監督だけが前面に出るのは珍しい。

現在のコーチスタッフは、岡田と監督-コーチの関係が今回初めてというケースが多い。打撃コーチの水口、今岡。投手コーチの安藤、久保田。守備コーチの馬場、藤本、筒井。水口と馬場は阪神自体が初めてで、その他は監督と選手という間柄で接してきた。前体制と同じ関係で臨むのは平田とバッテリーコーチの嶋田の2人。だからか、若いコーチはマスコミに発信することがなく、どこか萎縮している? という気がするのだ。

岡田彰布という野球人は、苦手な分野がないとされる。まず監督としての戦略、戦術にたけ、打撃部門はお手の物。投手に関しても知識があり、守備や走塁もかつてコーチをしていたほど、理論はしっかりしている。すべてにおいて、論破できるだけの野球知識があり、だから、すべて自分で解決していく。当然、コーチに求める中身は過酷なことが多くなる。

20年近く前のスタッフには、これらをうまく交わし、調和できる人材がいた。平田であり、木戸克彦であり、中西清起…。気心の知れた間柄だったから、萎縮することはなかった。

今回は違う。これは間違いない。監督とコーチの年齢差もあり、最後は岡田の独断専行にならないか。これが気になって仕方ない。

岡田はコーチに「見る」こと、「先を読むこと」を特に求める。常に見ていると、選手の動きの違いがわかるし、決め事通りに進めるのではなく、先を見越して手を打っていくことが、コーチの役割と諭している。なかなか監督に具申するのは難しいし、監督が岡田となれば、なかなかできない。だからこそ重要なポジションを担うのがヘッドコーチ。平田にかかる負担は重くなる。

星野仙一の時、島野育夫がヘッドコーチだった。寡黙な島野は、表舞台では多く語らず、星野の脇で考えを巡らせていた。だから裏に回って、星野の考えをコーチ陣に伝え、理解させ、そして橋渡しした。目立たぬように心がけ、コーチ陣の不満や不安を取り除く力を発揮した。名ヘッドコーチ、名参謀はこうしてできあがった。

平田勝男にかかる期待は大きい。持ち前の明るさ、軽妙な語り。何より豊富なキャリアが平田にはある。舞台裏でチームを回す役割を果たしてくれるかどうか。平田が島野育夫のようになれば、阪神はうまく戦っていけるに違いない。(敬称略)【内匠宏幸】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「岡田の野球よ」)

紅白戦 バックネット裏で笑顔を見せる岡田監督(左)と平田ヘッドコーチ(2023年2月12日撮影)
紅白戦 バックネット裏で笑顔を見せる岡田監督(左)と平田ヘッドコーチ(2023年2月12日撮影)