監督である岡田彰布も、それは想定外の展開となった。シーズンがスタートして2カ月で、なんと貯金が「17」(5月29日現在)。トラ番の取材でも「こんなん、デキ過ぎよ」と素直な気持ちを明かしている。

3月の中旬、岡田にシーズンの展望を聞いた。その時はこう答えている。「スタートダッシュとかは気にしてない。普通にスタートを切れれば、いいだけのこと。でもな、5割はキープしときたいよな」。あるのは勝率5割。それさえ保てば、十分に勝負できる。その確信があった。

ところが岡田の想像を超える現状。すべてがいい意味の想定外。それを冷静に見つめている。だから気を緩めることは一切ない。そして5月30日から始まる交流戦に挑む。パ・リーグ6球団と3試合ずつ。合計18試合であっても、順位争いに直結するといわれて久しい。このイベントが始まったのは2005年からで、岡田の監督2年目。リーグ優勝を果たしたシーズンからだった。この年は12球団で3位。以降3位、10位、2位と苦手にしていない。当時はパ・リーグのパワフル野球が全盛で、セ・リーグは軒並みやられていたが、阪神だけは、対等以上に戦った。

得意の交流戦はオリックスの監督になってからも続き、2010年には優勝している。「戦い方? そんなん、簡単やんか。シンプル・イズ・ベスト。そういうこと。深く考えなくていい。シンプルに対峙(たいじ)して、戦いながら感性に従う。それだけよ」。交流戦の極意をこう説いた。

世はまさに情報社会。プロ球界も年々、情報網は緻密になっている。たった18試合であっても、交流戦用のスコアラーがいて、パの野球を密着マーク。事細かなデータ、情報が現場に降りてくる。「もちろん、これは参考にする。でも、それをすべてと考えたら、アカンわな。データはあくまでデータ。例えば投手とバッター、18・44メートルの間にはデータには表れない感性が存在する。それを先に察知する方が重要やと、オレは思っているし、そういう戦いを指示してきた」。その考え方は今年も変わらない。相手のペースではなく、いかに自分たちの野球ができるか。それは指名打者制であっても変わらない。

つい先日、用事があって電話した際、話が交流戦に移り、最後、こう言って電話は切れた。「みんな、忘れていると思うけど、交流戦100勝監督、一番乗りやねんで…」。阪神、オリックス監督での交流戦は計7年。そこで勝利が3ケタ越え。これはなかなかの成績だし、いかに交流戦の戦い方を熟知しているかを示すものといえる。

でも過去にはこんなこともあった。2008年のこと。6月15日、千葉でのロッテ戦。その試合で、岡田が先発に起用したのがプロ3年目の鶴。彼にとってプロ初の先発のマウンドだった。

先発が不足し、苦肉の策ともいえる登用だったけど、現実は甘くはなかった。四球を出してはヒットを浴び、1アウトも取れずに6失点降板…。岡田が繰り出した奇襲は不発に終わったが、その試合、結局、9-10。打線の反発力がすごかった。

あの当時とは違って、今年の交流戦は戦力が充実。奇策、奇襲を企画しなくてもいい状態で挑める。大竹、村上、伊藤将、西勇、桐敷、才木…。いずれ青柳も戻ってくるだろうし、セットアップ、クローザーも死角が見当たらない。

「それは相手も同じことやけど、新しい戦力がどのチームも加わっている。データに表れないものもあるし、それはお互いさまよ。となれば、勝ち負けの分岐点はどこになる? いかに自分たちの野球ができるかよ。何度も言うけど、そこに尽きる。ああでもない、こうでもない…と考え抜くより、感じたものを大事にして、シンプルに向かえばいいんちゃうか。DH制もプラスになるはずやし、不安なんか、ないわ」。交流戦に強い監督、岡田彰布は自然体でいて、強気でいる。(敬称略)【内匠宏幸】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「岡田の野球よ」)