60試合に出場して打率2割2分2厘、本塁打5本、打点16。この数字、外国人選手としては物足りないどころか、解雇も仕方なし。雇う側の球団は考えた。クビにして、新たな外国人をと。ところがここで待ったがかかった。「残留よ」。声の主は監督、岡田彰布。ミエセスは「岡田人事」で窮地を脱した。

何も癒やし効果での残留ではない。岡田はミエセスの潜在能力を高く買っている。「いままでホンマの野球を教えられたことがない。これから、いろいろ経験すれば、必ず大化けすると思う」。岡田の言葉は熱い。だから、今回の新聞記事も驚かなかった。

早々と飛び出したミエセス改造プラン。かつてヤクルトで活躍したバレンティンのように、もっと前でボールをさばけば、必ずホームランは増える…と、指針を与えた。

外国人選手の去就に関して、基本は球団に任す。監督になってから基本方針は変えなかった岡田が初めて「わがまま」を示した今回のミエセス残留。こうなれば、必ずミエセスに結果を出させる。これが岡田の責任となる。

ミエセスはファンの間で人気者。それでも数字的にはクビ必至で「若い日本人選手を起用すべき」の声も当然出た。その若い選手…に該当した時期が岡田にもあった。

1980年、早大からドラフト1位で入団。でも時の監督、ブレイザーは岡田より外国人を優遇した。ヤクルトで活躍してきたデーブ・ヒルトン獲得を監督権限でごり押し。岡田入団なのに、ヒルトンありきで進めた。

この理不尽な人事はのちのヒルトン解雇、ブレイザー退団につながるのだが、今回のミエセス人事。岡田はブレイザーと同じように監督の権限を用いた。それだけに、ミエセスに結果を-。2月のキャンプ、岡田のミエセスへのマンツーマン指導。これは必見となる。

岡田と外国人選手。現役時代から面倒見がよかった。バースが成功した裏には、岡田の陰のサポートがあったと、バース自身が語っている。移籍してきたパリッシュには個人的に付き合い、チームになじませた。

コーチになってからも続き、2003年のリーグ優勝時には、守備走塁コーチであったが、不振に陥ったアリアスから助言を求められた。「オカダさんはバッティングに精通している。すがる思いでアドバイスをお願いした」。これがシーズン中の遠征先でのこと。担当外のことだったことから、岡田はヘッドコーチだった島野に連絡。了解を得たことでアリアスを上昇に導いたというエピソードが残っている。

監督になってからも、バルディリスという若手外国人の可能性を認め、根気よく指導し、レギュラーに育てた。これらのことでわかるように、岡田と外国人選手は非常に相性がいい。

今回はまさに岡田の「眼力」を証明する機会になる。ミエセスをどう導いていくのか。それによって岡田の眼力が試されるわけだ。起用できるとなれば外野手として。近本、森下を常時起用する構想で、残るポジションはひとつ。そこをノイジー、小野寺、前川、井上、野口らと競うことになる。さらに交流戦での指名打者。いずれにしてもミエセスがレギュラーに近い数字を残さないと、岡田も格好がつかない。「そんなの関係ない」ミエセスを、岡田がどう育てていくのか。これは注目!【内匠宏幸】(敬称略)

練習の合間にミエセス(手前)と笑顔で話をする阪神岡田監督(右)(2023年10月24日撮影)
練習の合間にミエセス(手前)と笑顔で話をする阪神岡田監督(右)(2023年10月24日撮影)