<イースタンリーグ:楽天7-4日本ハム>◇12日◇鎌ケ谷

ファーム取材を続け2軍の現状をリポートする日刊スポーツ評論家の田村藤夫氏(62)は、日本ハム4年目捕手の田宮裕涼(ゆあ=21・成田)の俊足に注目した。

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捕手に求められるものは多岐にわたる。特に近年はその特殊ポジションの重要性がますます大きくなる傾向にある。その中で唯一、あまり求められない能力が、実は足と言えるだろう。

この日、「4番捕手」で先発した左打者田宮を観察した。5打数2安打1打点。左投手に対して第1、第2打席は外のスライダーに三振。第3打席はやはり左腕のスライダーを二ゴロ。第4打席は右腕の外寄り甘めの真っすぐを左越え二塁打。第5打席は右腕から中前に適時打を奪った。

左投手のスライダーに対し、何とか粘ろうとファウルを打つスイングにバットコントロールの良さを感じる。ただし、第1、第2打席の最後は、ともにそのスライダーを空振り三振。1軍で結果を残すにはまだまだ力量不足は感じる。日本ハムの1軍は捕手を固定できずにいる。当然、田宮にもチャンスは回ってくるだろう。

私が注目したのは田宮の足だった。編成担当などの情報から俊足と聞いていたので、二塁打を放った時の走塁、適時打を放った後のリードなどを見ていたが足の動きが俊敏で、いかにも走れそう、素早そうなキレがあった。

捕手にはキャッチング、ブロッキング、スローイングという基本動作が求められ、そこを含めて配球へと進んでいく。リードなどディフェンス面での能力が最も重要とされているが、近年は打力を備えた捕手が非常に注目されている。中日の木下などは打力ある捕手としてレギュラーを手中に収めた。

守れるか、打てるか。こういう視点から語られる捕手の中、田宮には俊足という切り口がある。これは今までにない強みになるだろう。田宮が出塁した時、監督としては攻撃面での選択肢が増える。これは大きい。捕手は足が速くないというイメージが定着していると思うが、走れる捕手というのは新しい。

この試合で盗塁を試みる場面はなかったが、俊敏な動きからは可能性を感じた。今季、田宮は2軍で外野手として10試合、捕手として4試合に出場している。捕手としての勉強はまだまだこれからだが、足が速いことで外野手というチャンスも広がる。さらに、バッティングに関しても期待を感じさせるものを持っている。

ヤクルト村上は高校時代は捕手として活躍したが、プロでは三塁に転向している。少し前で言えば、西武から中日に移籍して打撃を大きく開花させた和田も、捕手から外野手へとコンバートされている。打力のある捕手は、コンバートによってチャンスをつかむ例はある。そして、田宮のように打力はまだまだこれからだが、足があることで外野手としての守備力や、盗塁などの走塁面で期待されれば、貴重な戦力になる。

私には、レギュラーになった捕手で盗塁ができる選手がなかなか思い付かない。プロ1年目から3年目くらいで、まだアマチュア時代の俊足を生かした捕手はいたかもしれないが、年数を経るにつれて走れなく、いや、走らなくなる。

私も関東第一では50メートル6秒前半で決して遅い部類ではなかった。しかし、プロ1年目からブルペンでキャッチングに向き合う中で、自分の打撃練習よりも長い時間、ブルペンにこもるようになった。座っている時間が長くなるにつれ、不思議なもので足が動かなくなる気がした。

捕手をしていたから足が遅くなったとは思わないが、どうしても走ることがおっくうに感じた記憶はある。座り続けたことで疲労が蓄積されたのか、走ろうという意欲がだんだん薄まったのか、そこは定かではないが、いつしか捕手は走れないという印象が定着したように思う。

田宮は4年目。走塁の動きを見ていても、足は動いている。動けることで外野手という選択肢も出てくるなら、チャンスを広げるためにもその足は大切にしてほしい。

当然、これからもキャッチング練習と並行してバッティング、外野手の練習と忙しくなるが、それでもその貴重な強みはいつか自分を助けると思い、武器になるんだと自覚し、磨いてほしい。

20年には1軍で盗塁を記録している。走れる捕手というのも、新庄監督のいる日本ハムならば意外性と夢があり、面白いかもしれない。(日刊スポーツ評論家)