<イースタン・リーグ:DeNA8-2ヤクルト>◇5日◇戸田

2軍戦から有望な選手や課題に直面する選手をリポートする日刊スポーツ評論家の田村藤夫氏(62)が、DeNAの高卒2年目、小深田大地内野手(19=履正社)のバッティングを解説した。確実にレベルアップしている右投げ左打ちの好打者。目の前の課題をクリアすれば、1軍昇格が現実味を帯びてくる。

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ファームの試合に足を運ぶと、自然と目に飛び込んでくる選手が必ずいる。過去の試合で全力プレーを怠った選手、技術的な課題に苦しんでいるバッター、逆に生き生きとプレーする若手は脳裏に残る。

DeNAでは「3番三塁」で出場した小深田のバッティングに目がとまった。第1打席は右投手との対戦でいい当たりの遊ゴロ。第2打席も対右投手で、追い込まれてから低めのフォークをうまく拾って右翼線三塁打。第3打席は左腕の初球ストレートをとらえ、いい当たりの中飛。第4打席は左投手から粘って四球。第5打席は右投手の外角へのチェンジアップに対応できずに空振り三振。

ちょうど球場入りした時、小深田がバッティング練習をしていた。ライト方向へ引っ張って強烈な打球を飛ばしている。プロ入りから1年たって、スイングが鋭くなっているのが練習を見ていてよく分かる。その成長を打席の中でしっかり観察してみた。

バッティングを解説する上で、2つのテーマから振り返った。1つ目は、バッティングカウントで狙い球が来た時に仕留めるバッティング。2つ目は追い込まれた時のバッティング。2つとも難易度は高い。一見すると、1つ目はプロであれば簡単と思われるかもしれないが、非常に難しい。

まず、小深田の「追い込まれた時のバッティング」から考える。第2打席でカウント2-2からの5球目、低めのボール球のフォークをうまくとらえて長打にした。ナイスバッティングだった。追い込まれた時は、真っすぐを頭に入れながら変化球にも対応するのがオーソドックスなやり方だ。

小深田なら、高校野球ならば相手投手の力量次第で、ある程度対応できたのではないか。これがプロの投手になると、勝負球として落ちるボールや、チェンジアップなどの抜いたボールもあるため、真っすぐを待ちながら、そうした変化球にタイミングを合わせなければならない。ボール球の低めはカットしたり、タイミングの合わない変化球はファウルで逃げたりしながら、打てるボールを待つ。

このバッティングを、次の試合でもやろうと思っても確率的にはそうそうできないだろう。追い込まれてからヒットを打つのは、10回やって3回成功すれば大したもの。第2打席では、小深田の技術面での成長を感じた。

では、「バッティングカウントで狙い球が来た時に仕留めるバッティング」はどうかというと、ここに小深田の乗り越えるべき課題が見えてくる。同じ第2打席、追い込まれるまでを振り返る。カウント2-0から、2球続いた真っすぐを打ちにいって、いずれもファウル。2-0は、打者からすれば理想的なバッティングカウント。相手バッテリーは3-0は避けたいため、かなりの高確率でストライクを取りに来る。ここで、真っすぐ狙いに絞っていれば、ヒットにする確率はかなり高まる。

小深田も真っすぐを狙っていた。それが2-0、2-1と、いずれもバッティングカウントで真っすぐを2球続けて仕留め損なった。

この日の小深田は、真っすぐ狙いで3度のバッティングカウントというケースで、3度とも真っすぐをファウルした。第1打席(遊ゴロ)では、カウント1-0からの2球目、外へのストレートを打ってファウル。真後ろに飛んだファウルだけに、スイング軌道とボールが、わずかにズレていたことがうかがえる。見ていてタイミングは合っており、惜しいスイングだったと感じたが、仕留めるか、仕留め損ねるか、ここに大きな違いが生まれる。

打者の習性というものがある。バッティングカウントで狙い通りのボールが来た時、無意識のうちにわずかに力む。力が入り、狙っているボールでありながら、タイミングも合っていながら、スイングが微妙にズレて仕留め損なう。

現役時代、西武の清原には何度もバッティングカウントで痛打されてきたが、それでも何度かは打ち損ない、捕手の私は「助かった」とほっとしたことがある。清原ほどの強打者であっても、「来た!」と感じた時ほど、ほんのわずかの力みからスイングがズレてしまうのだ。

ちなみに、こうした力みを感じさせなかった打者は落合さんとイチローしか思い浮かばない。いきなり次元の違う打者を例に出しては、話しはわかりにくくなってしまう。ただ、いかにプロの世界といえども、打者有利の状況で、狙ったボールを確実に仕留めることが至難の業か、多少は理解していただけるのではないか。

真後ろに飛んだファウルは、具体的にはボールの下をバットが通っているのだから、この数センチの誤差をいかにして埋めていくか、という作業になっていく。もちろん、相手投手との力量差は日々の試合で異なってくる。まず、小深田自身が仕留める確率を高めるスイングを磨いていくほかはない。

バッティングカウントで、狙い通りのボールを仕留め、そこからいかにして力まず、正確にスイングできるか。この経験値を、1つずつ地道に積み上げていくことが大切だ。(日刊スポーツ評論家)