田村藤夫氏(63)の2023年最初のリポートは、西武の新人合同自主トレーニングからのスタートとなった。ドラフト5位山田陽翔投手(18=近江)ら高卒組のちょっとした振る舞いに目が留まった。

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この時期にグラウンドに足を運ぶのは、新入団選手の動きをこの目で確かめたいからにほかならない。動き始めたばかりの新人選手の動きを見て、技術的な部分に触れることはない。ましてや、高卒組は、フォームの良しあしや、体力の有無を判断することなどとてもできない。

どんな表情で合同自主トレーニングに臨むのかな、そこだけが気になった。新人選手のこの時期に見せる初々しさは、いまこの瞬間しかない。どんな選手だろう。関心はこの一点に尽きた。

山田はドラフト3位の野田海人捕手(17=九州国際大付)と組んでキャッチボールを始めた。ちょうどその頃、源田の取材が始まったため、グラウンドの山田たちの動きに見入る報道関係者は、ほとんどいなかった。

私は右翼ポール際のフェンス近くにいた。野田が右翼、山田が左翼にいて、およそ80メートルほどの遠投をしていた。山田の投げたボールが高投となり、私の頭上を越えてネットで弾んだ。そのままグラウンドに落ちなかったため、下からネット越しにボールをはじきグラウンドに落としてやった。

野田は礼儀正しく「すいません。ありがとうございます」とあいさつ。まあ、当然と言えばそれまでだが、感じのいい印象を受けた。そのままキャッチボールは距離を縮めて継続され、再び山田がやや力を込めたボールがそれて、また私の近くに飛んできた。今度は、そのままグラウンドに跳ね返り、少ししてキャッチボールは終了した。

すると、山田、野田がそろって私の元へきて「さっきはすいませんでした」と、あいさつをしてくれた。私は心の中で「わざわざあいさつをしに来るんだな」と感じた。もちろん、礼儀正しい高卒ルーキーというのは珍しいことではない。

それでも、2人の行動は、どこか私をすがすがしい気持ちにさせてくれた。2人に「肩の調子は大丈夫か?」と声をかけ、2人とも「はい、大丈夫です」とはきはきと答えた。思わず「ガンバレよ」と、声がけをすると「ありがとうございます」と言って、次の練習へ走って移動して行った。

まあ、率直な感想としては「今日、見に来て良かったな」という思いが浮かんだ。何も、選手の特長をつぶさに観察しようと思って来たわけではない。冒頭で述べたように、どんな選手か、落ち着いた雰囲気の1月中旬のグラウンドで、自分の目で確かめたかっただけだ。それが、2人のさわやかな振る舞いに幸運にも触れることができて、ちょっと得したような気持ちになった。

山田は甲子園のマウンドにいた姿よりも上背は感じなかった。しかし、がっしりした体格で、いかにもずっしりと重い球を投げそうに見えた。練習最初のウオーミングアップでの長距離走は苦戦しているように見えた。短距離ではスピードを感じた。野田はむしろ長距離の方が得意なのかなという印象だった。そして、捕手として強みと言える素晴らしい強肩の片りんを感じた。

山田は近江では主将でエースで4番の重責を担った。それだけの魅力を見た思いがした。わずか1日のトレーニングだけでは、私の思い込みかもしれないが、「やっぱり主将タイプなんだな」と、振る舞いをみて感心させられた。

言うまでもなく、ここからはじまるプロの生活は競争、また競争だ。常にライバルと比べられ、試され、試練を与えられ、ふるいにかけられる。この日、見せてくれた2人の新鮮な笑顔はそうそういつまでも続かないだろう。試練はすぐに始まる。

しかし、実際にこの目で見たから分かることもある。山田も野田も、西武のファンの皆さんに応援される高卒ルーキーになれる。そう確信した。(日刊スポーツ評論家)