西武の新人合同自主トレーニングでドラフト5位山田陽翔投手(近江)を見た私は、それならば次は甲子園で山田と対決した巨人のドラフト1位、浅野翔吾外野手(18=高松商)を見るしかないなと思い立ち、ジャイアンツ球場へ足を運んだ。

     ◇     ◇     ◇

がっしりした浅野の体格は、遠めから見ても高校生とは思えなかった。上背はなくとも、原監督が例えた「スーパーボール」がよく分かる。全身のバネが、見ているだけで伝わってくるようだった。

長くプロ野球の世界にいたものとして、新人選手を見る楽しみというのは格別だ。それが戦力になるのかどうか、というシビアな見方とは一線を画し、こうしてプロ野球という社会に、有望でやる気に満ちた若者が入ってくることは、本当に頼もしい。どこまで成長するか、将来を見通すことも楽しい。

見入っていると、気付くこともある。浅野は最初外野でノックを受けていた。前の打球に対するチャージは、ややスピード感に欠けるかなと感じた。後ろの打球に対しても、一気に背走するというよりも、様子を見ながら加速しているように見えた。

打球を処理した後に定位置に歩いて戻るのだが、どこかおかしい。左右の足の運びが、見ていてしっくりこない。気になる箇所があるのか、違和感があるのだろう。観察していると、浅野の歩き方から、右足への力の入れ方に注意を払っていることがうかがえた。

寒波到来を控えてはいたが、昼間のジャイアンツ球場は、底冷えするほどの寒さではない。それでも、この時期の新人選手は細心の注意が必要だ。少しでも張り切ると、筋肉系を痛めることはよくあることだ。気になるなと思っていると、今度は歩きを止めて右足を伸ばしていた。私が見ている限りでは、1度ずつ計3回、右足を伸ばしていた。

やはり気になるんだなと思って見ていると、トレーナーと思われるスタッフと会話をしていた。少し言葉を交わしたあと、今度はノッカーに両手で丸の合図を送った。そして、今度は内野ノックに移ったのだが、ゴロへの出だしの強度が増している。チャージも力強くなり、私が見た感じでは違和感はなくなった。

浅野には、自分でしっかりコンディションを気にする問題意識の高さを感じた。そして、それをスタッフとも共有しており、チームとして把握していることが見えた。大切な新人選手たちだ。まず、よく体をほぐし、よく温めて、余計な不安を取り除いてしっかり動いてほしい。

他球団も含め、プロ野球ではこの時期、連絡不徹底や、確認を怠ったことにより、有望な新人選手が出だしでつまずく姿を、私は数多く見てきた。この日の新人自主トレーニングのように、段階を踏みながら、複数の目でチェックして、徐々に強度を上げていくやり方はとても大切だと、再確認した。

そして、図らずも浅野と短く言葉をかわすことができた。室内練習場へつながる通路に立っていたところへ、浅野が通り掛かった。自然と目が合うと「こんにちは」とあいさつをしてくれた。してくれた、という表現も変だが、何の違和感もなく自然な振る舞いでのあいさつに、こちらもとっさに「足は大丈夫?」と反射的に言葉が出た。

すると、浅野もかすかに驚いたような気配を見せたが、すぐに「はい、大丈夫です。高校時代からちょっと」と、手短ではあるけれど、わざわざ言葉を添えて説明してくれた。西武の山田や野田もそうだったが、浅野も気負わずに、本当にごく自然な振る舞いとして、受け答えがしっかりできていた。西武に続き、またまた感心してしまった。

そうなると、スムーズなキャンプインを願うこちらとしては「頑張って」と、声をかけずにはいられない。すると「ありがとうございます」と言って室内練習場に入って行った。

巨人はメディアの数も多く、常に見られた中で練習する。高校生の浅野にとっては環境の激変は大きなストレスになると、周囲は心配をする。しかし、私は浅野の練習態度、そしてちょっとしたやりとりから、これなら自分を見失わずに、体力強化、技術アップに集中して取り組めると感じた。

ノックの後はバッティング練習だった。打ち始める前に「お願いします」、打ち終わった後には「ありがとうございます」と、礼儀正しかった。やはり、社会人、そしてスポーツ選手はあいさつがとても大切なマナーの入り口になる。浅野のそうした基本的な部分には何の心配もいらないなと、確信した。

そして、この日、新人合同自主トレーニングを雰囲気良くもり立てていたのが、新加入したベテランの松田だった。明るく、1人1人に言葉をかけ、グラブタッチをしながら、練習に没頭できるムード作りに腐心していた。

松田の言動は、普段からやっているからこそのナチュラルさがあり、それに引っ張られるように、最初は緊張気味だった浅野たちも、どんどん笑顔が増えていった。浅野と松田がグラブタッチした場面では、こちらも笑顔になり、グラウンドの雰囲気は非常に良かった。

自分の体をいい状態に整え、それを継続することは、運動選手には非常に重要なことだ。右足の状態を慎重に見極めようとした浅野の問題意識、注目度が格段に上がった中でも自分のトレーニングに集中できる気持ちの面での落ち着き。こういう部分は、高校野球から巨人へと、練習環境が大きく変わった浅野に求められる資質と言える。

浅野のセフルコンディショニングは、十分に巨人でもやっていける土台を感じさせてくれた。キャンプイン目前にして、しっかり、着実にプロ野球選手としてのスタートを切ってくれそうな期待感が膨らんだ。(日刊スポーツ評論家)

新人合同自主トレを行う巨人ドラフト1位の浅野(左)と言葉を交わす中、本紙評論家の田村氏(撮影・江口和貴)
新人合同自主トレを行う巨人ドラフト1位の浅野(左)と言葉を交わす中、本紙評論家の田村氏(撮影・江口和貴)