<イースタンリーグ:DeNA0-2西武>◇16日◇横須賀

DeNAの新外国人選手として注目を集める、レッズ時代の20年にサイ・ヤング賞に輝いた右腕トレバー・バウアー(32=ドジャース)が、来日後初めて実戦登板した。4回を被安打4、6奪三振、四死球0で無失点。53球のピッチングだった。この大物右腕に対して、西武打線ではドラフト1位の大卒ルーキー蛭間拓哉外野手(22=早大)のバッティングに光るものを見た。 

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確かに、サイ・ヤング賞の右腕に興味津々だった。20年に投手として最高のタイトルを獲得するなど、まだ32歳の現役大リーガーのピッチングは非常に楽しみだった。そして、まだ調整段階のバウアーに対し、西武打線はどんなスイングをするのか、そこも注目していた。

西武ドラ1の蛭間拓哉(2023年3月撮影)
西武ドラ1の蛭間拓哉(2023年3月撮影)

と思っていると、いきなり、オッ、という場面に出くわした。1回表、西武は先頭若林が初球を打って右飛。積極的だなと思いつつ、2番蛭間の打席を見ていると、初球変化球を打って左翼への二塁打。通常、先頭打者が初球で凡退したら、2番打者はしっかり球数を投げさせようという意識が働く。

早打ちが悪いと指摘しているのではない。相手は大物メジャーリーガー。蛭間は大卒ルーキー。先頭打者は初球凡退。ならば、ボールをよく見てと考えても不思議はない。おそらく初球はカットボールだと思う。大きく曲がる120キロ台のスライダーではないと感じた。その変化球を、しっかり打って二塁打とした。

私は捕手なので、こういう打者心理に新鮮な印象を受けた。よく打ちに行ったなと。単なる積極的な姿勢というよりも、バウアーのボールに対して自分のスイングがどこまで通用するのか、どんどん振ろうという姿勢に映った。振って学ぼうということなのだろう。

そして、第2打席は3回1死一、三塁。初球140キロ後半の真っすぐを空振り。2球目は150キロの内角高め真っすぐを空振り。このとき一塁走者が盗塁して二、三塁となり、明らかにバウアーの出力が何段階も上がった。そして3球目は156キロ。この試合最速の内角中よりをスイング。かすりもせず空振り三振。第1打席から4球続けて振った打席は、私の目には前向きなものに見えた。

DeNA対西武 力投するDeNAバウアー(撮影・横山健太)
DeNA対西武 力投するDeNAバウアー(撮影・横山健太)

なかなかできない。特に156キロの真っすぐは、バウアーが現状ではかなり力を込めた強いボールだった。それを、当てに行くようなスイングではなく、振り抜いている。確かにかすりもせず、バットはボールの下を通過している。だが、ここは全力で来るだろうと予想できる場面で、蛭間も強振するところに価値を見た。

おそらく、自分の今のスイングスピードと、バウアーのボールの強さを蛭間は体感したはずだ。打って得る自信もあるだろうが、相手が何枚もレベルが上であれば、かすりもしないスイングから感じる力の差も、大切な感覚だ。蛭間が思い描いたミートすべきポイントで、さらに速く強く通過していく真っすぐに、歴然とした違いを知ったはず。それは貴重だ。

そして話はバウアーに戻る。この日、試合前の調整から注目していた。バウアーは捕手を右翼ライン際に立たせて、少しずつセンターへ移動しながら遠投した。最後は左中間まで離れ、およそ70メートルの遠投。そこで驚かされたのは、捕手を座らせたことだった。風は右翼から左翼へ。逆風の中、バウアーの遠投はワンバウンドとなった。

そして次の遠投は、この風を計算して投げ、今度はボールは高めに行き、捕手は立ち上がって捕球。70メートルの距離で、風を計算に入れながら正確に投げようとする。そして、遠投は左右にはほとんどずれていない。制球するという意味では、技術の高さを示す調整法と言えた。

試合に入ると、マウンドまで走る。そして、センターを向いてボールを握ったまま3度腕を振ってから、投球練習に入る。練習球の最初は、捕手を立たせ、マウンドやや後方から2歩ほど助走をつけて投げる。5球のうち、残り4球もすべて真っすぐ。外国人選手はほとんどがイニング間の投球練習は持ち球を投げるが、バウアーは違った。1回から4回まで、同じ動作を繰り返した。これがルーティンなのだろう。興味深かった。

DeNA対西武 3回表開始前、腕を強く振るDeNAバウアー(撮影・横山健太)
DeNA対西武 3回表開始前、腕を強く振るDeNAバウアー(撮影・横山健太)

肝心のピッチングはスライダーに特長があった。WBC決勝で大谷がトラウトから空振りを奪った軌道に近い。日本人のスライダーは斜め下に落ちるが、バウアーのは横へおよそ30センチほど滑る感じ。これを左打者の内角に使う。ストライクゾーンや、ストライクからボールへと投げ分けていた。右打者の外角にも効果的に使っていた。

そして、曲がり幅が小さいのがカットボール。スライダーが128キロ前後に対し、カットボールは135キロ前後。変化幅もおよそ10センチ。この2球種を使い分けられると、打者からすると脅威になる。また、左打者には外に落ちるチェンジアップが有効だった。右打者にはツーシームがあるが、この日ははっきりと確認できなかった。

この日のピッチングを見る限りは、まだどこまで勝てるか、私には判断がつかなかった。なぜなら、右打者のインコースを使っていないからだ。右打者へのスライダーは有効と感じるが、これはすぐにデータとして対策が取られる。もっと、きっちりコーナーを突くピッチングを見ないと、1軍相手にどこまで抑えるかは不透明だ。

クイックは1・38~45(合格基準は1・24)と良くない。足は上げないものの、そこからの動きに時間がかかり、これだと走られる可能性がある。こうしたところも含め、細部までしっかり調整したピッチングをぜひまた見たい。(日刊スポーツ評論家)