西武の滝沢夏央(20=関根学園)の足に魅了され、圧倒された試合だった。そして、見えてきた懸念材料を考えたい。

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3安打を放ち、試合の随所で好守備を見せてくれた。2回には山田の痛烈なハーフライナーを体を後ろにそらしながらも好捕。球際の強さを感じた。

4回には北村の、やはりヒット性の三遊間への当たりを飛び込み、素早く起き上がって一塁で刺している。続く西村の打球は内野安打になったものの、スライディング捕球から立ち上がり送球した動きは俊敏だった。さすがに左打者だけに内野安打も、あの打球に追いつくのは、1歩目の速さと同時に、シャープな体の動きがなせるわざだ。

中でも私が目を見張ったのは5回裏だった。ヒットの小森が二盗。続く左打者のカウント0-1からの2球目で、小森は三盗を成功させている。投球はアウトコース真っすぐでボールだった。

私は投球を見て、捕手が三塁に送球するまでを注目していたが、三塁手が送球を受けた時、なんと滝沢は三塁手の真後ろにいた。左翼線のところにいた。

これは、私の長いプロ野球人生でもはじめてのシーンだった。三盗の場面で、ショートが三塁のバックアップに行くことは理解できるが、それは左翼線から5メートルほどフェアゾーン付近のことだ。

滝沢のように、三塁手のほぼ真後ろ、左翼線までバックアップに入った場面など、見たことがなかった。正直に言って、私はショート滝沢の動きを見ていなかった。今までの経験上、ショートがあそこまでバックアップに入るとはまったく予想できなかった。

衝撃と言ってもいい驚きを覚えた。あそこまでバックアップに行く滝沢のスピードは驚嘆レベルだ。素晴らしい速さだ。かと言って、いいプレーだと、もろ手を挙げて称賛はできないとも感じる。

なぜなら、カウント0-1からアウトコース真っすぐに左打者が手を出さない確証があったとして、その根拠はなんだったのか。仮に、滝沢がバッターの動きを完璧にケアして、その上で判断をしてあそこまでバックアップしたのならば、これは特筆すべきプレーと言えるだろう。

だが、これは今度滝沢に聞いてみたいのだが、そこに根拠はあったのか、ということだ。もしかすると、あの状況で振ってこないという滝沢なりの判断があったのかもしれない。

ただ長年、内野手の動きを常に視野に入れてきた捕手だった私からすれば、どうしてもバットを振ってショートに打球が飛んだことを想像してしまう。恐らく、当てにいくバッティングで平凡なゴロがショートに飛んだとして、滝沢は反応できなかったのではないだろうか?

野球はどんどん進化している。滝沢として、もしくは西武内野守備の企業秘密として、あそこまで三塁にバックアップできる根拠があるのならば、私はここでまたひとつ勉強したことになる。

仮にそこまでの根拠はなく、1点負けている5回裏で、走者を三塁に進まれることを十分に警戒していた滝沢が、捕手の送球がそれることを念頭にここまで走ったのなら、ショートゴロで追加点を許してしまうことにならないか、と問いたい。

捕手の立場からすれば、あのタイミングで三塁手の後ろでカバーしてくれるショートは本当にありがたい。仮に送球が逸れても、本塁で刺せる可能性が出てくる。となれば、こちらもさらに思い切った送球ができる。

私が長年親しんできたセオリーを、どんどん超えていくプレーは、プロ野球の進化を実感させてくれる。そういう意味でも、滝沢のあのバックアップはいろんなことを考えさせてくれた。

せっかくなので最後に滝沢の足についてもう1点触れておきたい。3回表の攻撃で、1死からヒットで出塁。続く若林の中越え二塁打で生還できなかった。

この場面、ヤクルトのセンターは背走していた。ほぼ完全に頭を越している。滝沢は打球判断をするために二塁ベースのおよそ2メートル手前にいたが、あそこは二塁ベースを越えて、5~6メートルは進んで判断しても良かった。仮に捕られたとしても、滝沢の足ならば十分に一塁戻れたはずだ。

結果として、滝沢は三塁ストップで、この回は得点にいたらなかった。これは結果論になるが、二塁ベースを越えたところで打球判断していれば、おそらく追加点が奪えたと感じる。

滝沢の俊敏さと、無類の俊足を何度も見させてもらった。戸田まで足を運んだ甲斐があった。そして、私も試合を見る時に、これまでの固定観念を外し、セオリーだけを頼りに視線を送るのではなく、視野を広くしなければと感じさせてもらった。(日刊スポーツ評論家)