今年、東大がもっとも勝ちに近づいた1戦だった。東京6大学野球リーグ、法大2回戦は4-6の惜敗。小林大雅投手(4年=横浜翠嵐)が1回戦に続き先発した。6回までは1失点に抑え、打線も4点を援護。1番の辻居新平主将(4年=栄光学園)が2安打2得点と引っ張った。17年秋以来となる勝利が見えてきたが、終盤3イニングで計5失点の逆転負けだった。

目を赤くした浜田監督が「今の戦力の中で全力を出してくれた。選手たちを誇りに思う」とたたえたように、最後の瞬間まで全力で戦った。結果は実らなかったが、奮闘の裏には、主将の辻居と、副将の小林大の“絆”があった。

開幕8連敗で終えた15日の立大2回戦。その夜、辻居は珍しく小林大を食事に誘った。「お金がない」から、回転ずしへ。肩を並べ、すしをつまみながら、辻居はどうしても聞きたかった疑問を口にした。

辻居 小林は、どういう気持ちで打者に投げてるの?

小林大 目の前の打者に腕を振るだけだよ。

勝てなくても投げ続けるエースの本音を知りたかった。シンプルな答えに、ハッとさせられた。

レギュラーに定着した2年秋以降、打率3割を2度。ドラフト候補に挙げられたこともあるが、今秋は打率1割未満と絶不調だった。「小林の答えを聞いて、吹っ切れました。主将であることを、でかく考えすぎていた。自分が何としなければという気負いが邪魔していた。それよりも、一選手として、目の前の投手に食らいつこうと思いました」。法大戦は2試合とも2安打で小林大を援護した。

性格は異なる。休みの日、辻居が積極的に出かけるアウトドア派なら、小林大は部屋で過ごすインドア派。だが、野球へ取り組む姿勢は、チームメートたちが「ストイック」と口をそろえる共通点がある。

辻居は主将として、投手陣に厳しいことも言ってきた。ただ「小林には何も言うことがなかった」。信頼関係があった。

辻居 最後にこういう試合。下級生が頼もしくなった。こういう試合ができたのを、誇りに思います。

小林大 後輩たちが今日の試合を見て、奮起してくれることを願います。

ともに、後輩たちへの思いも語った。2人とも、野球は大学まで。辻居は法科大学院を目指し、将来は弁護士を考えている。小林大はJR東海に就職予定。社会人野球の名門だが、ビジネスマンとしてだ。

周囲からは、野球をやめることを惜しむ声が聞かれる。辻居は社会人チームから声もかかったが「ここ(東大)だから結果を出せたと思います。また、違う道で頑張りたい」と明るい声で話した。0勝29敗で去る小林大も「悔いは残ります。勝っていないので。でも…このチームでできて、本当にありがたかった。東大を受けようと思った選択肢は、大正解だったと思います」と言った。

数字だけ見れば、彼らの4年間、特に後半の2年間は報われなかった。だが、ともにチームの人たちへの感謝を口にした。最後にそう言える時間を過ごせた。数字では計れない財産だ。その財産が次の代に受け継がれ、連敗ストップにつながるか。【古川真弥】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

法大対東大 1回裏東大1死三塁、犠飛失策で生還した三走辻居は喜びのジャンプ(撮影・垰建太)
法大対東大 1回裏東大1死三塁、犠飛失策で生還した三走辻居は喜びのジャンプ(撮影・垰建太)