季節が逆戻りしたかのような冷たい風にあおられ、桜が散って行った。頑張って半月近く咲き続けてくれた今年の桜が、ふびんでならない。甲子園に向かいながら、舞洲の練習を見ながら、お花見を楽しむはずだった。桜を愛でる余裕もないまま、4月が過ぎていく。

本来ならプロ野球が開幕し、高校野球も春季大会がたけなわの時期。シード権以外は夏の甲子園に直結しない大会だが、大事な舞台だ。全国的には無名だった逸材が、春に台頭してきた。アマチュア野球担当になって1年目の95年には、南京都(現京都廣学館)・斉藤和巳(元ソフトバンク)を見に府予選に駆けつけた。こんな投手が京都にいたのか、とびっくりした。08年の大阪府予選では、大阪桐蔭・浅村栄斗(楽天)の長打力に驚いた。10年は、週末ごとに履正社(大阪)の山田哲人(ヤクルト)を取材した。試合ごとに山田は走攻守で結果を出した。斉藤も浅村も山田も、球界を代表する選手になった。

山田は前年秋までは、進学か社会人への進路をほぼ固めていた。「プロに行きたいです」と進路変更を家族に告げたのは5月。春季大会の活躍が自信になったと聞いた。高校生にとって人生を左右する大事な春の大会も、新型コロナウイルスの感染拡大で各地で中止となった。来年こそ、球場の行き帰りに桜を見る。優しい春であってほしい、と願う。【遊軍=堀まどか】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

08年7月6日、北大阪大会1回戦で3点本塁打を放つ大阪桐蔭・浅村
08年7月6日、北大阪大会1回戦で3点本塁打を放つ大阪桐蔭・浅村
95年5月、スカウト陣が見つめる中で力投する南京都・斉藤和巳
95年5月、スカウト陣が見つめる中で力投する南京都・斉藤和巳