自慢の校歌は流れなかった。センバツ決勝、明豊はサヨナラ負けで準優勝に終わった。4度、甲子園で流れた校歌の5度目はなかった。地元、大分・別府市の明豊高校の体育館で、生徒らとテレビ画面の前で応援した丸馬(まるめ)寿副校長(62)は「5回目、聞きたかったですね」とポツリつぶやいた。

軽快なピアノのイントロで始まる。高校の校歌とは思えないほど、ポップな歌詞とメロディー。大分出身のシンガー・ソングライター、南こうせつが作曲、育代夫人が作詞、南こうせつ自身が独唱する「明日への旅」が明豊自慢の校歌だ。これまで校歌と言えばややお堅いイメージがあったが、それを破るような曲にSNS上では「すごい爽やか」というコメントも目立つ。学校にも問い合わせがあり、丸馬副校長は「勝ち進むたびに『CDを買いたい』など、校歌に関する電話が多くなった。そのたびに『非売品』ですと答えてました」とうれしそうに目を輝かせた。

校歌は3番まであるが、実は「修正版」が甲子園で流れている。前回センバツに出場した19年の初戦に勝利して校歌が流れた際、ナインが終わるタイミングがつかめず、演奏が終わる前にアルプス席方向へ走りだしてしまった。丸馬副校長は「南さんから、1番だけで終わるバージョンをわざわざ作ってくれたんです。それを高野連に提出して2回戦から変更して、現在にいたってます」と明かした。初戦から2回戦までわずか5日間。短期間で南こうせつが球児のために曲を作り直した。その年はチーム甲子園最高となるベスト4まで進出。そして今年はさらに上の準優勝で、4度も校歌が流れた。

明豊の校訓「夢・勇気・愛」が盛り込まれている校歌。コロナ禍の中、爽やかな明豊ナインの戦い同様、高校野球の新時代を思わせるイメージを甲子園に残した。【浦田由紀夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)