阪神はなかなか味わいのある補強をしたのでは、と思う。29日、阪神の球団事務所で行われた中田賢一の入団会見にはシーズンオフのネタ不足? もあってか多くの報道陣が訪れた。その中の1人として中田の表情を見ていた。

中日で9年、ソフトバンクで6年、現役を続けている中田は「暴れ馬」と呼ばれることもある。勢いのある球を投げるが制球が乱れることも目立つ。四球も死球も多いようだ。本当に多いのか。これが多いのだ。

中田は現役投手の中で与四球が2番目に多い。1番はロッテ涌井秀章だがイニング数は涌井の方がかなり多い。1試合(9イニング)を投げ切ったときに与える四球の確率として考える「与四球率」は3・60で中田の方が高い。

さらに与死球も多い。これは通算28位で「89」を記録しており、これも現役では涌井についで2位。言うまでもなく死球を出す確率も高いのだ。

それでも阪神移籍で最短でも来季38歳での現役は決定した。考えてみれば、これはなかなかすごいことだ。制球力がない、四球が多いなどと言われながらここまで投げ続けている。

中田は球界では好青年として知られる。マウンドでも常に一生懸命投げている様子が伝わってくる。さらに公立大を出ているから…ということだけでもないが少し話すだけでも謙虚さ、頭の良さが分かる。そういう面も投球に影響しているのか、と思ったりする。

補強はじんわり進んでいるが阪神最大のテーマは、やはり藤浪晋太郎だ。名前を出すのは申し訳ない気もするけれどここ数年、制球難に悩み、本来の力を出せていないのは誰もが知るところ。今季終盤、少し藤浪と話す機会があった。

そこで同じく制球難から成長した青柳晃洋の話をしてみた。1歳上の青柳について藤浪は真剣な表情でこんな話をした。

「そうですね。青柳さんは何かコツをつかんだみたいなんですね。そんな話をされていました」

コツ。簡単な言葉だが技術面でもメンタル面でもその言葉に多くのものが集約されている。「暴れ馬」がなぜ長く現役でやれているのか。近くで接することで藤浪にいい影響を与えれば、と思ってしまう。ベテランの加入にはその意味もあるかもしれない。中田自身の活躍はもちろん、周囲に好影響があれば、なお、味わいがある。(敬称略)

中日木下拓に死球を与え、帽子を取って謝る藤浪(2019年8月1日撮影)
中日木下拓に死球を与え、帽子を取って謝る藤浪(2019年8月1日撮影)