久しぶりに会社に行くと華やかな光景が広がっていて驚く。服部天神宮の福娘7人が来社していた。毎年、恒例の行事。美しい福娘たちに福を授けてもらっていると、旧知の宮司・加藤芳哉が「ちょっと」と声を掛けてくる。

「これをお願いします」と差し出されたのは足の守護の御守りだ。同天神は「足の神様」。この御守をこれまでイチロー、城島健司、糸井嘉男、谷佳知ら接する機会がある多くの選手に渡してきた。生粋の虎党である加藤は「近本選手に渡してもらえれば…」と言うことだった。

そう言えばピンとこなかった。普通なら今年2月のキャンプで渡せばいいものを。シーズンが終わったこの時期まで気付かなかったのは一体、どういうことだろうか。

こちらの油断にもかかわらず近本はルーキーイヤーの今季、36盗塁をマークして盗塁王に輝いたのは言うまでもない。立派だ。もっともケガをしないという意味もあるので機会を見つけて渡そうと思う。

近本にかかる期待は大きい。1年目で阪神を代表する選手になったが、球界の顔にも育ってほしい。球界を代表する左打ちの俊足外野手といえば、名前がいろいろ挙がるが、やはりこちらの頭の中では今季引退したイチローだ。

イチローは日本、つまりオリックスの9年間で通算199盗塁をマークしている。近本は今季36個なのでこのレベルを続ければそれを抜ける。それ以上に興味を持っているのが三盗だ。

イチローの師匠・仰木彬は自身が見いだしたスーパースターに唯一、不満めいたことを言ったことがある。それが三盗についてだった。イチローの日本での最多は95年の49盗塁だったが仰木は「三盗をすればもっと増える」とこぼしていた。199個のうち三盗は通算22個。11・1%だ。

「絶対にセーフになるタイミングでなければ、三盗は意味がないので」。イチローはそう言ったが確かに三盗が相手に与えるプレッシャーは大きい。近本はどうか。今季36個のうち、5個。13・9%は確率ではイチローを上回っている。

これを続けていけば、あのイチローをしのげるポイントになる。阪神の勝利にもつながるかもしれない。指揮官・矢野燿大の下、そんな積極姿勢も見たい。年の瀬、御守を手にちょっとおめでたいことを考えてしまった。(敬称略)