19日夜の「報道ステーション」(テレビ朝日系)を見た人は多いかもしれない。池江璃花子のインタビューが放送されたからだ。

言うまでもない東京五輪での競泳女子金メダル候補だった。しかし昨年の2月に白血病であることを公表。それから苦しい闘病を続け、テレビ出演できるまでに回復したという。

「ここにいることが奇跡だし、生きていることが奇跡」。松岡修造の熱いインタビューに答え、ときに涙を流しながら話す池江の姿に、ホテルのテレビの前でもらい泣きしてしまった。

そして思い出すのは、やはり原口文仁のことだ。18年オフに大腸がんを患い、闘病生活を送った。19年のこの時期はちょうど抗がん剤を飲み始めたころか。昨年1月26日の手術後にステージが「3b」だったことが判明。そこから抗がん剤を飲み、少しずつリハビリも始めた。

「池江さんのインタビューですよね。ボクも見ようと思っていたんだけど。疲れてしまって寝てしまいました。録画で見てから、またどう思ったか、話したいと思います」

あれは見た? という問いに原口は真剣な顔で答えた。「疲れてしまい…」というのはよく分かる。普通に選手としてキャンプに参加している原口は当然とはいえ、通常メニューに参加している。この日も楽天との練習試合が終わった後、午後5時過ぎまでグラウンドでバットを振っていた。それは疲れるだろう。

その練習試合で原口はキラリと輝いた。5回に代打で出るときれいな右前打をマーク。さらに7回の第2打席には中前打。9回にも打席が回り、ここで打ったら猛打賞やん…と思っていたら本当に中前にはじき返した。これも今更だが相変わらずの打撃センスだ。

「去年の今頃はテレビでキャンプの様子を見ていたんですからね。そう思えばね…」。汗まみれの原口はそう振り返った。

日々のニュース、出来事はすぐに忘れられていく。原口にしてもキャンプで練習しているのは当たり前の光景になった。しかし人間の営みは実は当たり前ではないし、健康に過ごせている人はひょっとしたら池江が言うように「奇跡」なのかもしれない。そう思う。

そして虎党は原口の安打から大きな力をもらえる。原口にすれば余計なことかもしれないが、彼のたどってきた道は忘れないでおきたい。(敬称略)