4回表、ベンチで帽子をかぶり直す矢野監督(撮影・森本幸一)
4回表、ベンチで帽子をかぶり直す矢野監督(撮影・森本幸一)

ナゴヤドーム、というか名古屋と言えば今でも思い出すのは「名古屋コーチン」のうまさだ。20数年前、近鉄-オリックス戦というカードの取材で名古屋遠征に出掛けたことがあった。

00年代初頭まで近鉄は当地に沿線を持つ関係で主催試合を名古屋で行っていた。そのときは地元・愛知出身の大スター、イチロー擁するオリックスとの対戦だった。今では1つになってしまった球団同士が、しかも名古屋で戦ったというのは隔世の感がある。

そこでオリックスの指揮官だった仰木彬が例によって「おい。メシ食うぞ」という号令を担当記者たちに出した。普段はゆっくり話を聞けない監督と膝詰めで話せる機会で、取材する立場にはありがたい。現在はコロナ禍でそれもないのはさみしいが、とにかく名古屋で食事会となった。

そこで出されたのがすき焼きを始めとする名古屋コーチン料理だった。そのうまさといったら。仰木に聞きたいことがあったはずだが、仕事を忘れて料理に集中してしまい「お前、きょうは静かやな」などと仰木に言われた気がする。

そんな中でも覚えているのは仰木が5割の話をしたことだ。仰木は常に5割にいることの大事さを強調した。別に名古屋だけで言ったわけではなく、多くの局面で言っていたので覚えているのかもしれない。

5割でいれば1つ勝てば貯金ができる。逆に借金1なら勝っても5割だ。貯金するには2連勝以上が必要になってくる。まったく当たり前の話なのだがこれが長いペナントレースでは効いてくる、という話だ。だからいつも仰木は言った。

「とにかく5割や。5割でいれば何とかなる。5割が大事や」

阪神は前日に逆転勝利した中日に0-1で敗れた。正直、この日のような打線の並びでは機動力は使えない。長打が出たり、安打が続いたりでないと得点は難しい。6回、サンズが二塁打で出て、無死二塁。ここから4番・大山悠輔、ボーア、そして福留孝介が倒れたのでは策も何もベンチはどうしようもない。

西勇輝には気の毒だが負ける日だったということだ。大事なのは3戦目、26日だ。ここで勝って貯金1で上位のヤクルト戦に乗り込むのか。それとも負け越し、借金で行くのか。この違いは大きい。勝率5割キープ。今も昔も、どんな時代でも上を狙っていく最低条件だ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

6回裏中日1死一、三塁、西勇はA・マルティネスを空振り三振に仕留め、雄たけびを上げてガッツポーズ(撮影・前田充)
6回裏中日1死一、三塁、西勇はA・マルティネスを空振り三振に仕留め、雄たけびを上げてガッツポーズ(撮影・前田充)