11年4月28日、好機で二ゴロ併殺打に倒れる阪神新井貴浩
11年4月28日、好機で二ゴロ併殺打に倒れる阪神新井貴浩

真弓明信(日刊スポーツ評論家)が阪神監督だった頃の話だ。4番の新井貴浩が初球外角スライダーに手を出し、二ゴロに打ち取られる場面をよく見た。言うまでもない本塁打を狙えるスラッガー。打ち急ぎですかね? と真弓に聞いた。

「そうやな。新井には『全打席、本塁打を狙え!』と言ってるんだけどね」。真弓は苦笑しながら答えた。本塁打を狙っていれば、本塁打にできる球しか打ちにいかない。結果的にそれが安打になることもある。いわゆる「本塁打の打ち損ないが安打になる」という典型的な考え方だ。

意味合いは違うかもしれないが「本塁打は狙って打つ」という点ではレジェンド・イチローからもこんな話を聞いたことがある。

「僕に関して言えば本塁打は狙わなければ打てませんね」。天才ヒットマンはボール球でも安打にしてしまうほどゾーンが広い。逆にいえば「本塁打が必要」と思えば、そう意識して待っていたということだ。大リーグに行ってからは「自然と本塁打になった」こともあったそうだが、基本の意識はそうだった。

それとは違うというか、逆の考えもある。広島の名外野手として走攻守すべてに秀でて一発もあった緒方孝市(日刊スポーツ評論家)はこんな理論を言う。

「そのときのコンディションにもよりますけどね。安打も出ない状態で本塁打を狙えばそれこそフォームを崩してしまう。しっかりした打撃を心掛けていれば本塁打になることもある。いずれにしても大事なのは本塁打そのものより試合に勝つための打撃ができるかどうかですから」

広島に史上初の3連覇をもたらした前指揮官は、個人記録よりチームの勝利と強調した上で「安打の延長が本塁打」という考えであることを明かす。

狙って打つか。自然に本塁打になるか。素人には分からないがプロにはそれぞれの感覚があるのだろう。「好球必打」の意味では共通しているのか。いいかげんで申し訳ないけれど見ている方からすれば打ってくれればどちらでもいい。

大山悠輔の逆転25号2ランは見事だった。しっかり引っ張った打球で試合に勝って、本塁打王レースにも並んで。これ以上ない本塁打だ。狙うか自然派か。大山はどちらだろう。あるいは「こっちですね」という境地にはまだ達していないか。頂点に立てば何かが見えてくるはずだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対DeNA 5回裏阪神1死一塁、左越えに25号の逆転2点本塁打を放つ大山(撮影・清水貴仁)
阪神対DeNA 5回裏阪神1死一塁、左越えに25号の逆転2点本塁打を放つ大山(撮影・清水貴仁)