キャンプ初日。宜野座はこれ以上ないぐらいの快晴だった。24度の気温は暖かいというよりも暑い。スタンドに座っているだけで日焼けする。外せないマスクがうらめしい。

そんな中、練習は着実に進んだ。この日は日刊スポーツ評論家の緒方孝市といっしょに見た。その緒方が言う。「4日に紅白戦をやるって聞いたとき、なんでそんな早くに、ケガとか大丈夫かと思ったけど。これなら心配ない。みんなしっかり作ってきているね」。広島で3連覇を果たした男の言葉に少し期待を抱く。

その期待がさらに高まった光景があった。藤浪晋太郎だ。早々と行われた投内連係の練習。念のために説明すると打者代わりのコーチがバントし、その転がり具合で投手、あるいは野手がそれを処理する。併殺想定の場合は二塁、あるいは三塁へ送球する。

この練習に藤浪が参加した。プロのレベルではなんてことのない練習に思われるが藤浪はよく送球ミスをする。長らく苦しんできた制球難がここでも顔を見せ、送球がそれたり、上ずったりするのだ。申し訳ないけれど、この日もそこを見ていた。言うまでもないがプロの投手は相手打者を抑えると同時にこういうプレーをしっかりこなせないと試合をつくれない。

そして藤浪はこの日、まったくミスをしなかった。バントのゴロをひろって投げる。一塁へ。二塁へ。三塁へ。おなじみになったサイドスローからの送球をストライクで投げた。ネット裏に陣取るスコアラーたちに感想を聞いてみた。

「うん。うまくなってますよね。自信をもってやっているというか。今年に向けて投げ方も変えているみたいだし、いろいろ考えているんじゃないですか」。広島のスコアラー岩本貴裕が代表するように話した。

投げ方というのは言うまでもなくワインドアップだ。以前から背が高いのにセットポジションから投げるなんてスケール感がなくなるようでもったいないと思っていたので賛成だ。なによりブルペンでも見たが指揮官・矢野燿大が言うようにカッコいい。

「おおきく振りかぶって」。ヒットしたコミックの名前だ。しっかり読んだことはないのだが野球を通じて悩み多き少年が成長していく物語という。細かいプレーでも成長を感じさせた藤浪。「おおきく振りかぶって」今季こそ完全復活のシーズンとしてほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

ブルペンで振りかぶって投球する藤浪(撮影・前田充)
ブルペンで振りかぶって投球する藤浪(撮影・前田充)