連夜の接戦で広島に連敗を喫した阪神。敗戦の中で、唯一という言い方がいいかどうかは分からないが一瞬、光明が差したのは4回に梅野隆太郎が放った適時打だったかもしれない。

先制された直後の4回、阪神打線は床田寛樹を攻めて1死一、二塁の好機をつくった。ここでサンズがラッキーな同点適時打。そして打者は注目のルーキー佐藤輝明に回った。ここでガツンといけ…。虎党はそう思ったが空振り三振に倒れてしまった。

しかし次打者の梅野が一時は勝ち越しとなる渋い中前打を放った。この場面を見ていた緒方孝市(日刊スポーツ評論家)は「いい安打だね。佐藤輝は少し助かったんじゃないかな」とうなずいた。この安打の持つ“意味”がこちらも分かるだけに強く同感した。

現在の阪神、話題の中心は佐藤輝である。日刊スポーツを含め、関西メディアは何はなくても佐藤輝という感じだ。安打、本塁打を放てば当然1面。ヘッドスライディングしても、あるいは打ち取られた悔しさでバットをたたきつけても1面、である。

こういう現象をやゆする声は以前から多い。それが選手をつぶすのではないか、という意見だ。もちろん、それもひとつの考えではあるし、メディア側にしても反省しなければならない点の1つだろう。

しかし同時にそういう扱いを受ける選手は間違いなくスター選手ということだ。脇役の選手なら活躍すれば持ち上げられるかもしれないが、ダメだったら取り上げられない。スターはよくても悪くても書かれる。そこが大きな違いだ。

もちろん重圧だろうが、それは期待の裏返しでもある。ファンやメディアのプレッシャーに耐えてこその一流だとこれまでの経験から考えている。何も阪神だけの話ではない。

そうはいっても、プレーしている方にとってはこたえるだろう。ましてやルーキー。だからこそ周囲が佐藤輝にふりかかる重圧を振り払ってやらなければならない。主砲・大山悠輔、マルテ、そしてサンズ。もちろん近本光司も梅野も。

「みんなで勝ちにいく」と指揮官・矢野燿大が言うのはそういう意味もあるはず。佐藤輝が沈黙しても周囲が打って試合に勝つ。確かにすごいんだろうけど、新人だし、プロは甘くないぜ。オレたちを見とけ…というぐらいの貫禄を感じさせてほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)