開幕投手を務めた藤浪晋太郎が登録抹消された。前日23日のDeNA戦(甲子園)で先発したが今季最短の5回途中で降板した。「情けないピッチングをしてしまいました。野手の方々に申し訳ないですし、しっかり反省して次の登板は頑張りたいです」。そう反省していたが「次の登板」は当面、1軍で実現しないことになった。

それにしても毀誉褒貶(きよほうへん)の激しい選手だ。結果が出ると絶賛され、悪いとけなされる。前日の試合途中もヤジが聞こえていた。そういう面で「阪神」という球団をこれほど象徴している人間もいないなあ、と思う。

指揮官・矢野燿大もそれは実感しているはず。だからこそ今季を託す意味で開幕投手に指名したのだろう。その試合、藤浪に白星こそつかなかったが抜てきが奏功し、ここまで阪神が首位を走っているという見方もできなくはない。

とはいえ今の阪神、藤浪がいなくなっても「緊急事態宣言」ではない。この試合でルーキー伊藤将司が完投勝利をマークしたように新しい存在は出てくる。次回、藤浪の代わりに誰が投げるのかはともかく、そこに選手はいるのだ。厳しく言えば藤浪は現状「不要不急」の存在ではなくなりつつあるのかもしれない。

それでも、と思う。人間は不要不急だけで生きているのではない。娯楽といえば簡単だが音楽だったり映画だったりスポーツだったり。何かしら心を動かす事柄、要素がないと味気ない。「あいつで勝ちたい」。多くの虎党にとって藤浪も、そんな存在だと書けば間違いだろうか。

以前、藤浪の登場曲は「僕が僕であるために」だった。歌詞は書かないけれど苦しむ右腕を知る人間には染みるし、いい選曲だと思っていた。藤浪のそれは“ミスチル”バージョンだったが元々は言うまでもなく尾崎豊の名曲だ。

4月25日は、その尾崎の命日。92年、26歳の若さで亡くなっている。多くの人と同じく、とても好きだった。同世代なのでショックを受けたものだ。そして藤浪は今月12日、尾崎より1つ年長になっている。

巨人が逆転負けし、再び2ゲーム差になった。まだ順位を気にかける時期ではない。それでもBクラスにいるより“可能性”は高い気がする。待ちかねた歓喜の瞬間へ。2軍調整を経て、再び藤浪の尽力はあるだろうか。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)