指揮官・矢野燿大の決断が光った試合だ。最大のそれは先発・西純矢の交代時期だろう。立ち上がりに連続四球を出し、バタバタした西純だが正捕手・梅野隆太郎の懸命な励ましもあり、そこを無失点でしのぐ。

すると初対戦で真っすぐ中心の投球にヤクルト打線が戸惑ったのか、調子を上げて無安打無失点のまま責任投球回数を投げ終えるではないか。球数はこの時点で87球。スタミナ的にはまだ、いけなくはない。

こういう場面、監督は欲が出るもの。1イニングでも長く投げればブルペン陣の負担はそれだけ少なくなる。それ以前に「ここまで無安打なんだから…」と続投させても、まったくおかしくないところだ。

「まずは経験というところだったので。ヒットを打たれていないというところは迷いましたけど…」。勝利監督インタビューで矢野は本音を語っていた。淡々とした話し方だったけれど投手コーチの福原忍とも盛んに話し合っていたし、かなり迷ったと想像する。

初登板だったり、若い投手が予想以上の好投をしたとき、引っ張りたくなるのは人情である。それで続投させ、打ち込まれて失敗に終わるケースはよく見てきた。もし西純が続投していればどうなったかは誰にも分からない。それでも崩れる危険を未然に防いだ采配は光ったと言っていい。

さらに2番手・馬場皐輔に2イニングを任せた。7回は岩貞祐太では? と思ったが馬場が力投。岩崎優の“誤算”はあったものの最後はスアレスできっちり締め「勝利の方程式」リレーも決めた。

攻撃面でも巨人時代、相性のよかった阪神相手に投げ込んでくる左腕田口麗斗に苦しめられていたものの足を絡めた攻撃で7回に追加点を奪った。その攻撃の起点となったのが久しぶりに起用した山本泰寛の安打だったのも面白い。

試合前から動いていた。前日から心配していた糸原健斗がやはり登録抹消。そのタイミングで大量9選手を入れ替えた。開幕から40試合以上が経過し、テコ入れの必要性を感じたところで大胆な決断だ。

「勝てば選手が頑張った。負ければ監督が悪い」。そう言われるのがこの世界だ。もちろん全責任を持つ指揮官にとって、それは当然のことだし、逃れられない運命でもある。批判を受けることも多い。だからこそ、この日は矢野の決断を評価したいと思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)