指揮官・矢野燿大に“イヤミ”を言われたのは昨年オフだ。1年目の「矢野ガッツ」が2年目は姿を消した。3年目はどう? という話をしたときだ。

「自分の中で楽しむ『矢野ガッツ』が減っているのは自覚していた。成績も、その部分も苦しんでいた。(3年目は矢野ガッツを)やり切りたい。楽しむって決めているんで。僕は子どもたちに夢を与えたい。僕らが楽しまないと子どもに夢を与えられない。高原さんみたいに大人が疲れているから子どもに夢がないんでね(笑い)」

そんな話だった。オトナはみんな疲れてるやんか、と思ったけれど矢野の考えも分かるので納得した。それでいけば、今こそ、言いたい。優勝争いのこの状況を楽しみ、子どもたちに夢を感じてもらおう、と。

面白くない試合だった。人並み外れたアスリートの集団に対して失礼を承知で言えば、まるで面白くなかった。甲子園では今季ラストのTG戦。相手先発は今季初対戦の菅野智之だ。優勝を目指すというか近いところにいるチームとして、勝敗は別にファンを喜ばせる試合をしてほしかった。

なんだかチーム全体が硬いというか、好調だったときの躍動感のようなものがなくなっている。理由はいろいろあるが例えば作戦面か。攻めが硬いのでは、と感じてしまう。

1回、近本光司がいきなり二塁打で出塁。菅野はイヤな感じだったろう。巨人にすれば負けられない試合である。ここで阪神ベンチは中野拓夢に犠打を命じた。うまく転がし、糸原健斗の適時打で先制に成功したが独断と偏見で言わせてもらえれば「1点だけ先制してもなあ…」と思った。

最近は中野に犠打が多い。主軸が不振なのでまず1点と思う気持ちも分かる。しかしチームの強みは機動力だろう。菅野を揺さぶる意味でも1回から近本の足を生かして盗塁なり、エンドランなり、仕掛けてほしかった。中野は新戦力の元気者。強行で結果が出れば一気に乗っていけたかも…などと思ってしまった。

なによりマスク越しに見える矢野の表情がいかにも硬い。もちろん、それは当然かもしれない。優勝へのプレッシャーは想像もつかない苦しさのはず。それでも、いや、だからこそ。今こそ自分たちが楽しんで、虎党を喜ばせるという「矢野の考え」に帰るときではないか。思い切って戦ってほしい。(敬称略)(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)