ある意味で「開き直った」ということではないか。16年ぶりに期待されていた優勝を逃す土俵際まで追い込まれている阪神。そこで指揮官・矢野燿大が自分の気持ちに正直になった結果の勝利だと思う。

巨人対阪神 9回表阪神2死一、二塁、先制の適時二塁打を放つ板山。投手ビエイラ(撮影・河野匠)
巨人対阪神 9回表阪神2死一、二塁、先制の適時二塁打を放つ板山。投手ビエイラ(撮影・河野匠)

板山祐太郎が決勝打を放った9回。独断と偏見で言わせてもらえれば東京ドームの雰囲気は「おや?」という感じだったと思う。ベンチには糸井嘉男も原口文仁も残っていた。あるいは大山悠輔も。ここは代打では? そう思った虎党も少なからずいただろう。

「直感というか。板山に任せてもいいんじゃないかなと思った」。矢野自身がはっきり言ったように7回、ロハスの代走に送った板山をこの土壇場で打席に立たせたのだ。「大勝負」と言うほどかっこいいものではないかもしれないが、なかなかのギャンブル。その結果は「吉」と出た。

板山だけではない。この3連戦、スタメンマスクは正捕手・梅野隆太郎ではなく坂本誠志郎に任せた。疲労もあって極度の打撃不振に陥っている梅野の出番はなかった。坂本はリード面で矢野が高い評価を与えている捕手である。

さらにこの2試合は島田海吏に1番を任せていた。正直、まだ荷が重いのではないかと思ったが必死でプレーしていた。それに伴い、木浪聖也も2試合続けてスタメン。最後には貴重な2点打を放ち、ここも成功となった。

名前をあげた選手は、みんな一生懸命で気持ちのいい男たちばかりだ。活躍を祝いたい。同時にこのメンバーは矢野が2軍監督時代、ともに汗を流した顔ぶれだ。そんな選手たちを起用したいとの思いを矢野は常に持っているはず。ときに周囲からは好みが出過ぎるのでは…という見方をされるときもある。

しかし言い切ってしまえば監督というのは、元来、そういうものだろう。それで結果が出れば起用した方もされた方も言うことなし。失敗すればなんとなく妙なムードになるし、当然、批判もされる。

「勝負の3年目」と挑んだ今季もあと8試合となった。球団からは来季以降の続投を要請されているが、いまはそれを考える余裕はないはず。2軍監督から1軍監督。自身がたどってきた道の中で矢野は本当の意味で勝負しているのかもしれない。それが意地の大連勝につながるかどうか。結果を最後まで見守りたい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

巨人対阪神 試合後、矢野監督(左)、井上ヘッドコーチ(中央)に迎えられる板山(撮影・狩俣裕三)
巨人対阪神 試合後、矢野監督(左)、井上ヘッドコーチ(中央)に迎えられる板山(撮影・狩俣裕三)