いいものを見たような気がする。10日に開幕4番は佐藤輝明か? という虎番記者にヘッドコーチ井上一樹が答えた。「今の流れでいけばそうでしょ。シーズンに入って大山がぐ~っときたら大山が4番になることはある」-。大げさに言えば「開幕4番」がハッキリした直後の試合だった。

甲子園に立浪ドラゴンズを初めて迎えた一戦は4番右翼・佐藤輝、5番左翼・大山悠輔の並び。他の内野手も試す狙いもあり、めずらしい守備位置にはなったが4、5番の並びは想定内。そこで2人にまったく同じ“状況”が生まれた。

同点の6回、先頭で打席に入った大山に対し、中日のエース大野雄大はボールが先行。カウント3-0となる。これは打者23人目で初めてだった。その4球目に大山はバットを出し、ファウル。3-1からの5球目は外れ、四球で歩く結果に。ここからロハスの適時二塁打で勝ち越した。

すると7回、同じことが佐藤輝の打席で起こる。中日の2番手・近藤廉を攻めて一死一、三塁で4番に回った。佐藤輝は3球連続で球を見て、3-0。その4球目を打ちにいき、ファウルとなった。結局、5球目が外れて四球。その後、阪神打線に安打が続き、この回、4得点を重ねた。

カウント3-0から打ちにいくのはかつての野球なら褒められたものではなかった。「相手投手が苦しんでいるのに…」という感じである。そこで思い出すのは阪神で「代打の神様」として活躍し、03年優勝メンバーでもあった八木裕から聞いたことだ。

「3-0からは打ちにいけと指導しています。少なくともファームのレベルなら一番、甘い球が来るカウント。それを逃すなということです」。10年ほど前、八木が2軍打撃コーチだったときにそんな話をした。

さすがに1軍ではそうとは限らないし、さらにいえば1軍経験の少ない選手がそれを実行するのは難しいかもしれない。しかし4番争いを展開し、ともに中心打者という2人には、そういう積極性は必要だ。

ともに中心打者。虎党、メディアの視線はもちろん、本人たちにもその自覚はしっかりあると感じた光景だった。当たり前だけど、そうでなくては面白くない。4番はどちらなのか…ということは別にして、内心で「オレの方が打つぞ。すごいぞ」と感じる競争のはずだ。結果を残しながら続けてほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対中日 7回裏阪神1死満塁、大山は中前2点適時打を放つ(撮影・上田博志)
阪神対中日 7回裏阪神1死満塁、大山は中前2点適時打を放つ(撮影・上田博志)