「まさかボクが打つとは思っていなかったでしょうし、いい意味で期待を裏切って-」。なかなか気の利いたインタビューだ。さすが熊谷敬宥だなと思った。「チームNO.1のイケメン」らしいが、こちらは会話のキャッチボールができる男と理解している。

入団すぐの頃だったか。試合前のベンチで何か話し掛けようと思ったけど、正直、何もネタがない。選手の性格を知る前から野球そのものの話をするのはなるべく避けているので考えた末、ムチャぶりというか、こんなことを口走った。

「熊谷選手。熊谷(埼玉)っていうのは日本で一番暑いところやろ?」

熊谷は一瞬、きょとんとしたがすぐに笑顔で「そうですね。でもね、あっちはクマガヤでボクはクマガイなんですよ。でもボクも熱いプレーができるよう頑張ります!」。若いのに、というのも正しいかどうかは分からないが、なかなか面白いヤツだな、という印象を持ったものだ。

この日は「トラコデー」で女性ファンも多いようだったし、イケメンの活躍はよかった。指揮官・矢野燿大も「一丸野球」を掲げているので控えの選手の活躍はうれしいだろう。こちらもフレッシュな殊勲者が出るのは歓迎だが、その影で悔しい思いをしただろうと想像する選手がいる。

佐藤輝明だ。この日のスタメンで安打がなかったのは佐藤輝だけ。延長11回の好機に打てば、それこそ“千両役者”ぶりを発揮できていた。守備では延長10回にバックホームで本塁突入を刺すプレーを見せたものの打撃では蚊帳の外だ。

こういうのを見るといつも思い出すのは前監督・金本知憲だ。鉄人と呼ばれた現役時代、ワンサイドの展開や乱打戦になったとき、なぜか打たないということが多かった。不思議なことだが、主軸選手というのはそういうことものか、とよく感じたものだ。

「みんなが打つときに打たない」のは個人的にはつまらないだろうが「誰も打てないときに打つ」方がファンからは信頼される。金本はそういう打者だった。

次の6試合の意味は大きい。佐藤輝が得意とする横浜スタジアムのDeNA戦。そして今回同様に大野雄大、柳裕也が先発するだろう敵地の中日3連戦だ。ここの結果次第で7、8月のセ・リーグの様相は違ってくるはず。佐藤輝にはここで打って、自身のバリューを上げてほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対中日 7回裏阪神1死、佐藤輝は中飛を打ち上げる。投手は柳(撮影・加藤哉)
阪神対中日 7回裏阪神1死、佐藤輝は中飛を打ち上げる。投手は柳(撮影・加藤哉)