思わず、もらい泣きしてしまった。才木浩人のヒーロー・インタビュー。さぞかし苦しい日々だったのだろう。若者の感涙はすがすがしい。これが野球、スポーツだけでなく仕事、勉強など多くの頑張る人々に勇気をもたらす結果になればいいと思う。

持ち味の速球が生きたマウンドだった。当たり損ないの内野安打があったが5回を投げて内野ゴロで取ったアウトはゼロ。内外野への飛球が9、三振が5で、あと1つは梅野隆太郎が二塁で刺したものだ。

「ストレートを打ち上げさせ、変化球でゴロを打たせる」。そんな投手の基本を考えればまさに真っすぐが走った投球だろう。故障明けということもあり、いったん登録抹消されるようだが、また胸のすく投球を見せてほしい。

才木の勝利は19年5月1日の広島戦以来だ。記憶から抜けている人も多いかもしれないが、その日は「令和初日」だった。東京でも大阪でもどこでも人々は街に集って新たな世を歓迎したものだ。

そして阪神にとって「令和」の4シーズンはすべて矢野燿大が率いている。コロナ禍による特別ルール、無観客試合と予想外の状況が続く中、過去3年は19年の3位、20、21年の2位とすべてAクラスに入ってきた。昨季は優勝に近づき、惜しくもそれを逃したがセ・リーグの中で結果を出してきたのは事実だ。

「優勝しなければ何位でも同じ」。そんな考えもあるかもしれないがクライマックス・シリーズもあり、やはりAクラスに入るのとそうでないのは違う。ヤクルトに史上最速でマジックが点灯した状況だが開幕9連敗という最悪の出だしとなった今季こそAクラスに入れば意味もあるはず。

4位に浮上した阪神、巨人に負けた3位広島とのゲーム差は「2」になった。5日からはその広島と甲子園で3連戦だ。ここまで「未勝利」という異常な状況からまずは抜け出し、なんならこれまでの借りを返す3連勝で一気に抜き去る気概を見せてほしいものだ。

「才木だけじゃなく、まだ頑張ってもらう投手もいる。野手もまだまだ頑張ってもらわないと。全員でやります」。矢野はそう話した。その通り、全員で戦った結果として「令和の阪神にBクラスなし」という状況を続けることは重要だ。「常勝軍団」とは言えなくてもそれは来季以降につながっていくからだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

中日対阪神 中日に勝利しヒーローインタビューで涙する才木(撮影・加藤哉)
中日対阪神 中日に勝利しヒーローインタビューで涙する才木(撮影・加藤哉)